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2015年2月 6日 (金)

『博士と彼女のセオリー』の保守的なおもしろさ

アカデミー賞というのはもちろんアメリカの映画業界が投票する賞だが、3年近く前の「ロサンジェルス・タイムス」にその構成メンバー層をめぐる暴露記事があった。もちろんメンバーは非公開だが、同紙の調査によると6千人弱のメンバーのうち、白人が94%で男性は74%、平均年齢は62歳。

そこから浮かび上がるのは、高齢で保守的な富裕層のアメリカ人像という。そのせいかどうか、いつもながらノミネートされる作品は、過去を振り返るノスタルジックなものが多い。

最多9部門ノミネートの『グランド・ブダペスト・ホテル』は既に公開済みだが、これは老作家が1960年代について語り始め、1930年代に向かう文字通りレトロな物語。もう1つの9部門の『バードマン』(4月10日公開)は、かつてヒーローだった落ち目の俳優が、舞台を通じて自分を取り戻す物語でこちらもノスタルジック。

先日見た8部門ノミネートの『イミテーション・ゲーム』は、第二次大戦中の英国で、ナチスの暗号を見破る天才数学者の話。これまで機密扱いだった真実を知る喜びもあるし、天才の変人ぶりも楽しめる。基本はナチスを破るべく戦った人々の話だから、安心して見ていられる。

先日見た『博士と彼女のセオリー』は作品賞を含む5部門ノミネートだが、これはそれらと比べてもさらに保守層に訴える映画かもしれない。誰でもその名前を知っている天才物理学者ホーキンス博士の伝記的な映画で、学生時代のジェーンとの出会いと発病、そしてそれを乗り越えて車椅子で発見を続けてゆくさまが、巧みに描かれている。

とりわけ結婚式や子供たちと海岸で遊ぶシーンが16ミリや8ミリの粗い画像で撮られ、ノスタルジックな音楽が流れると、何とも泣けてくる。博士を演じるエディ・レッドメインが、少しずつ病状が悪化してゆくさまを見事に演じ切っている。これは主演男優賞かもしれない。

車椅子や声が出ない人のための文字盤などが、1960年代から現代まで少しずつ発展してゆく過程もきちんと描かれている。終盤、博士が大勢の観客の前で人工音で講演をし、質問に答えるシーンはそのハイライトだろう。

これまた天才の物語で、加えて車椅子に乗った障がい者の物語だから保守層には強いだろうし、成功して現在も活躍中の博士を知っているから安心して見ていられる。主演男優賞だけでなく、ほかの賞も取れるのではないか。

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