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2015年3月 5日 (木)

「教育のアベノミクス」をめぐって:その(1)

このブログでは政治についてはあまり触れないが、大学についてはもっと書かない。読んでいる学生もいるので気になるし、それ以上に自分がそこから給料をもらっている以上、書きにくいことがあるから。

ただ、最近は「教育のアベノミクス」のようなものが進行中なのに、ほとんど世の中に知られていないのでいくつか書いておきたい。文科省は昨年9月、人文・社会学系や教員養成系の学部について「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換」を促す内容の通知を出した。

簡単に言うと、旧帝大以外の国立大学は、文系は理系に改組するか、実学にシフトすべしというもの。東大などに入れないが文学や経済学を学びたい(ぜいたくな)学生は、学費の高い私学に行ってもらえばいいという発想らしい。それを受けて、昨日の朝日新聞のオピニオン面に「文系学部で何を教えるか」という特集があった。

新聞らしく賛成と反対の意見があるが、賛成しているのは経営コンサルタントの冨山和彦氏。彼によれば、日本経済は世界と戦うグローバル経済圏と交通や飲食、福祉などのローカル経済圏に分かれたという。そしてローカル経済圏の生産性が日本は低いらしい。

それを高めるために「ローカル大学」(たぶん二流、三流大学の意味)の「学生には、職業人として必要なスキル、実践力を大学で身につけてほしい。学術的な教養にこだわる従来の文系学部のほとんどは、ローカル大学にはほとんど不要です。…サミュエルソンの経済学ではなく簿記会計を、憲法学でなく宅建法を」と続く。

「私はこのアカデミズム一本の「一つ山」の構造を「二つ山」にすべきだと考えているんです。高度なアカデミズムの学校と、実践的な職業教育に重点を置いた実学の学校とに」

これは違う。私はもっと大学に実学を導入すべきだと思うが、それは東大でも「ローカル大学」でもそうである。東大で7年間非常勤をやった経験からすると、優秀な学生は多いが、相当に能力が低い学生もいる。これもいくつもの大学で教えた経験から言えるが、いわゆる二流や三流大学でも、極めて優秀な学生が必ずいる。

なぜなら、入試ではなかなか本当の能力は掴めないし、20歳くらいから急に伸びる学生もいるから(そのために大学はある)。だから「ローカル大学」でも高度なアカデミズム教育は必要だし、そもそもそれがないと大学の根幹が揺らいでしまう。反対意見の日比嘉孝名大准教授が述べるように、「自分の頭で考える力」は、誰にでも必要である。冨山氏の考えには、コンサルタント特有の傲慢さを感じる。

「教育のアベノミクス」は、ほかにも進行中なので、後日(本当に)また書きたい。

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