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2015年3月24日 (火)

『妻への家路』に見るチャン・イーモウの現在

現代において、アジアの監督は長持ちしない。かつて世界をリードしたホウ・シャオシェンもチェン・カイコーも、今ではずいぶん目立たない。ヨーロッパではいまだにゴダールやベロッキオが、アメリカではスピルバーグやスコセッシやイーストウッドが活躍しているのに。

私にとっては、中国のチャン・イーモウ監督もそんな残念な存在の一人だった。かつてチェン・カイコー監督の『黄色い大地』(84)の撮影監督として登場し、『赤いコーリャン』(87)で監督デビューした頃の輝きは同時代的によく覚えている。

最近は大作が目立ったが、新作の『妻への家路』はコン・リーが主演で文化大革命を背景に描いていると聞いて、見たいと思った。彼ら第五世代は文革への怨念から生まれたようなものだから、それを30年後にどう描くか関心があった。

見た感想は、実にうまいと思ったが、どこか引っかかった。チャン監督の演出は的確そのもの。前半の、こっそり駅で妻に会おうとする夫と、それをようやく見つけた妻(コン・リー)、そして母を止めようとする娘の3人に大勢の警察官が加わってのアクション・シーンには目を奪われた。

物語は、右派分子として強制労働をさせられていた元教授の夫が文革が終わって帰ってくるが、妻は記憶障害で夫の顔が見分けられず、待ち続けるというもの。先ほど書いたシーンは、文革終了の3年前に収容所を脱走した夫がこっそり妻に会おうとして、娘に密告されて捕まるところ。

110分の映画でここまでが30分ほど。それから夫の帰宅後の悲劇がじっくり語られる。写真、ピアノ、手紙、饅頭や蕎麦や餃子などの食べ物などの小道具が見事に生きていて、そのそれぞれが涙を誘う。とりわけ夫を待ち続ける妻を演じる老いてゆくコン・リーは、そこにいるだけで胸を打つ。

そして「何年もたって」というクレジットの後に、見事なラスト・シーンが待っている。たぶん感動した人は多いのではないか。私も見ながら何度か泣きそうになったが、見終わると「うますぎる」という気分になった。すべてを計算して演出されているようで、彼の90年代までの映画のような切迫感がなかった。

アジアの監督は長続きしない、という持論はやはり変わらない。もう一つ、1990年の香港国際映画祭に行った時に、チャン監督とホテルのエレベーターで乗り合わせたことを思い出した。当時はまだコン・リーが愛人と言われていなかったはずだが、彼は一人だった。

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映画「妻への家路 」★★★☆ コン・リー、チェン・ダオミン、 チャン・ホエウェン出演 チャン・イーモウ 監督、 110分、2015年3月6日公開 2014,中国,ギャガ (原題/原作:帰来) 人気ブログランキングへ">>→  ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい← 「中国映画界を代表する チャン・イーモウ監督が、 『紅いコーリャン』『上海ルージュ』など 数々の作品でタッ... [続きを読む]

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