京都の話:その(5)夜の東山を歩く
とにかく、夜のライトアップとかイリュミネーションとかが苦手だ。あんな子供だましに喜んでスマホをかざしている人々を見ると、日本はやはりダメかなと暗澹たる気分になる。それでも友人に誘われて、京都の春のライトアップを散策した。
何度か行った京都の仕事も今回で一段落ということもあり、始まったばかりの東山の「花灯路」を見た。要するに、清水寺から八坂の塔を通って知恩院あたりまでの歩道を、露地に置いた提灯で照らすもの。付近の寺院も夜間開館してライトアップしている。
とにかく人が多くて、タクシーも進まない。どの寺に行こうかと迷ったが、これまで行ったことのない高台寺に行った。清水寺などに比べたら込まないだろうと思ったから。それでも入場券を買うのに並ぶくらい人がいた。靴を脱いで中に入ると、まずお座敷に現代の工芸が並べてあってがっかり。
もっと落胆したのは、庭園でのプロジェクション・マッピング。その俗悪さには秀吉もびっくりだろう。大きな池に木々が写っていたり、竹林が生い茂る庭は悪くはないが、昼間にゆったりと見たいと思った。
そこから燈籠の道を祇園の方に歩いて、「祇園楽味」という店に入った。カウンター14席の店だが、ここは前に行った「祇園ろはん」にも増して素晴らしかった。ここはお決まりの品が数点出て、それから後はお好みという形式という。
最初に出てきたのは、茹でた白アスパラにイイダコにホタルイカのぬた。特に大きなアスパラは新鮮で季節感いっぱいだ。それからお椀がでてきたが、中には焼き目のついたアマダイが浮いていた。ここまでで既に満足感があった。
それから、目の前に大きな箱が3つ並んだ。20種類ほどの魚介類で、まずは生もので好きなものを選べという。選んだのは、シメサバやボタンエビの刺身に、クジラのベーコン、「くもこ」と呼んでいた白子の暖かいポンズ煮、ウニと白エビを海苔で包んで塩をつけて食べるもの等々。
それが終わると、今度は焼き物、煮物用の魚の箱が20種ほど並ぶ。肉まである。悩んだ末に食べたのは、モロコという琵琶湖の小魚の串焼きに、キンキの煮付け、フグの唐揚げに、熟成牛肉のローストビーフ。そしてシメには大きな鯖寿司一切れを選んだ。
最近ここに書いた北参道のイタリア料理店「ボガマリ」は、メニューがなくて順番に厨房前に行って20種ほどの魚介をシェフと相談しながら決めるパターンだったが、それに近い。ただしこちらはカウンターのみで、向こうから大きな箱を目の前に持ってきて、刺身などは板長さんが目の前で切ってくれる。
板長さんのほか4人ほどの若い板前さんに運び屋さんが1人で、よくも14席分をここまでフォローできるなと思ったが、店主で板長の木田さんは何とも楽しそう。日本酒も彼に相談して決めてもらった(にごり酒の「蒼空」と少し甘い「射美」とすっきりの「北島」)。13年末にできたらしいが、素材のおいしさとぴったりの調理、ライブ感、居心地の良さで、最高の店だった。もう花灯路はどこかに行ってしまった。
ちなみにここも「ろはん」もカードが使えなかったので注意。気取らず、高すぎない京都のいい店は、みなそうなのだろうか。
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コメント
高台寺のプロジェクションマッピングには私も本当に呆然とさせられました。そういえば、京都に行くと、至るところに高台寺のポスターが貼ってありますよね。
投稿: 石飛徳樹 | 2015年3月 8日 (日) 17時08分