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2015年3月 2日 (月)

イランの薬師丸ひろ子

珍しくフィルムセンターでアジア映画をやっているので、行ってみた。福岡市総合図書館コレクションから選んだものらしいが、私がたまたま空いている時間に見たのはイランのアスガー・ファルハディ監督の『火祭り』(06)。

先日のベルリンでは、映画製作と国外への渡航を禁じられているジャファール・パナヒの映画が金熊賞を取ったが、イランの監督はみな危機的な状況にある。アッバス・キアロスタミもモフセン・マフマルバフもバフマン・ゴバディもみんな海外に住んで、多くは外国資本で映画を撮っている。

唯一の例外が『別離』(11)のアスガー・ファルハディだが、最新作『ある過去の行方』(13)はフランスが舞台の合作だったので彼も危ないのかもしれない。そんな彼の未公開作品が今回の『火祭り』。

その一つ後の『彼女が消えた浜辺』(09)を見た時に、語りのうまさには引き込まれながら、登場人物たちが美男美女でみんな裕福でバカンスを楽しんでいる様子がどこか引っかかった。ちょうど中国政府が推す中国映画で、いかにも中国は進んでますよと見せられる感じと近いものがあった。

『火祭り』はそれほどでもないが、それでも舞台となる家庭はかなりぜいたくだ。オートロックで外部の人間は入りにくいし(それが映画の鍵となる)、なによりその家族のアパートメントがたぶん200平米はゆうにある。そして主人公で若いメイド役を演じる女性が、若い頃の薬師丸ひろ子にうり二つ。

物語は結婚を前にしたその女性が、メイドのバイトに行って30代夫婦の危機を目の当たりにするというもの。いわゆる「家政婦は見た」的な物語だが、その夫婦のやり取りの修羅場がさすがにファルハディだけあって、お見事。手持ちカメラがぐいぐい迫る。そのうえ、どんでん返しまである。

一般公開されないのですこし詳しく書くと、妻は隣に住む美容師と夫の浮気を疑っており、メイドに秘密を探りに行かせる。何もしらないメイドはうまく立ち回って夫婦の危機は一見回避されたかに見えたが、終盤に浮気の場面がドンと出てきてびっくり。

そのうえ美容師の別れた夫と子供まで出てくる。メイドは浮気の現場以外はすべてを見ることになり、結婚直前に夫婦の難しさを知るというもの。その後のファルハディに比べたら、話がまとまりすぎていて面白みに欠けるが、それでも十分に楽しめた。それにしても、薬師丸ひろ子以外でも妻役の女性も美容師も美人でお洒落。ファルハディがイランのいいイメージを伝えているのは間違いないが、中身はドロドロの浮気話だから差し引きゼロか。

客層は20代から60代までの男性中心で150人ほどか。いわゆるシネフィルたちが集まって、「有名監督の未公開作を見る」という感じ。通常の邦画の時のもっと素朴な感じの客層とは全く違う。昔ならば満員になったのだろうが。

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