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2015年4月28日 (火)

日本語で読むモディアノ

昨年のノーベル文学賞をフランスのパトリック・モディアノが受賞したと聞いた時、ちょっと驚いた。実は彼は、私が唯一その小説を仏語で読んだことのある現代作家だった。出会いは、1992年のパリ。

私は最初の職場で、短期研修の名目でパリで7月から9月まで過ごしていた。一応ユーロセンターという学費の高いスイス系のフランス語学校に通っていたが、よく休んでロカルノやベネチアなどの国際映画祭、あるいはエジンバラ演劇祭やカッセル・ドクメンタなどに参加するために、欧州を旅行していた。そこの学校の先生に勧められて読んだのが、出版されたばかりのモディアノの『サーカスが通る』。本屋に平積みされていた。

30年後に18歳の頃を思い出す男の話だが、全体が謎めいているし、いくつかの過去が混じってノスタルジックな雰囲気だった。それにパリの通りや広場の名前がいくつも出てきて重要な役割を果たすのも楽しかった。この本は自分で訳そうと思ったくらいだが、3年後には翻訳が出ていた。ほかにも数冊買って、そのいくつかは読んだはず。とにかく読みやすいフランス語だった。

また「ノスタルジア」になったので、今回読んだ本の話をしたい。『暗いブティック通り』(78)と『ある青春』(81)で、白水社のフェアで割引があったので買った。どちらも若者を主人公にしてその過去をめぐる、似た感じを与える小説だった。

『暗いブティック通り』は、記憶喪失者が自分の過去を辿る話で、ロシア系や英国系、ギリシャ系など外国人を中心に何人もの人を訪ねてゆく。写真や手紙やメモが見つかるが、自分が何者だったかは明らかにならない。怪しげな人々の人間模様が美しいけれど、その過去がどうもナチス占領下の虐殺と関係がありそうなことは間違いない。

『ある青春』は、35歳のカップルが20歳で出会った頃を思い出す物語。兵役上がりのルイと歌手志望のオディールは怪しげな人々と知り合いながら、犯罪を手助けしてゆく。ルイの年上の友人のブロシエが、若いアフリカ人の恋人、ジャックリーヌを紹介するのがパリ大学都市で、各国館が何とも幻想的に描写される。

私は1984年夏から1年間、その大学都市に住んでいたので、何とも懐かしかった。アメリカ館の2階の角部屋で広い窓が3つもあった。そこから見える木々は今でも思い浮かぶ。また「ノスタルジア」になってきたので、小説に戻る。

モディアノの小説の懐かしい感じは、日本語で読んでも変わらなかった。おかしな人々が次々に出てくる語りのうまさはちょっと村上春樹のようだが、モディアノの小説は断章が並んでフィルム・ノワールの映画のように謎めいていて、かつその奥に恐ろしい過去がある。外国人の知らないフランスの闇の部分というか。

2つとも読み終わってもわかったようなわからない感じなので、もう1度読むともっと味わえる気がする。モディアノの小説に、私個人のパリ・ノスタルジアが重なってゆく感じがする。

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