アニメ『百日紅』の爽やかさ
何度も書いているように、アニメはあまり見ない。5月9日公開の原恵一監督のアニメ『百日紅』の試写を見たのは、北斎の娘の話というテーマに惹かれたからだろう。もちろん原作の杉浦日向子の漫画も読んでいない。
そもそもアニメの監督として名高い原恵一の作品は、私は実は唯一の実写映画『はじまりのみち』しか見ていない。これは木下恵介を描いたものだが、相当おもしろかった。
『百日紅』は、父である葛飾北斎と暮らす23歳のお栄が主人公。自らも浮世絵師だが、男勝りで一人で生きて行こうとする。父への尊敬と反発や盲目の妹への思い、ある絵師への憧れなどが淡々と綴られる。杏の声がピッタリで耳に快い。
何より、江戸の町がいい。とりわけ妹が好きという両国橋から見る光景は忘れがたい。行きかう人々、左右に広がる平屋の家々、澄んだ川の水、夕日、百日紅や椿などの花などなど、江戸は何と美しかったのだろうかと幻想を抱いてしまう。時おり挟み込まれる空からのカットを見ると、江戸の都市計画は見事だったのではないかと思う。
北斎が拍子抜けするほど普通のオヤジなのもいい(松重豊の声も)。絵を描くことにしか関心がなく、家は散らかり放題。彼や娘の絵をきちんと見せているのも楽しい。その絵が次第にできあがって行ったり、あるいはできた絵が動き出したり。
吉原も、火事も、妖怪騒ぎも、歌舞伎座も、点描のように出てきては消える。大きな出来事も淡々と過ぎ去ってゆき、最後には北斎が死んで中年になったお栄まで出てくる。90分という長さも含めて、潔い江戸の人々を爽やかに描いた、気持ちのいい作品だと思った。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- ドキュメンタリーを追う:その(1)ワイズマンからランズマンへ(2024.12.10)
- 『オークション』を楽しむ(2024.12.04)
- 東京フィルメックスも少し:その(2)(2024.12.02)
- 映画ばかり見てきた:その(2)(2024.11.30)
- 深田晃司『日本映画の「働き方改革」』に考える(2024.11.26)
コメント
「クレヨンしんちゃんモーレツオトナ帝国の逆襲」を是非見てください。オヤジ世代号泣作品です。アッパレ戦国大合戦も必見です。
投稿: 石飛徳樹 | 2015年4月26日 (日) 09時26分