菅原文太の知性
昨年の11月28日に菅原文太が亡くなった時、私は「ああ」とは思ったが、強い感慨はなかった。『仁義なき戦い』(73)の時は小学生だったし。まだ、高倉健の方がある思いがあって率直にWEBRONZAに書いたら、これは少しだけ攻撃が来た。
菅原文太のことが気になったのは、高橋源一郎が「朝日新聞」の3月末の論壇面で彼のことを取り上げていたから。「「知性」とは、未知のものを受け入れることが可能である状態のことだ。菅原のように、である」
その文章には、『現代思想』で臨時増刊号として「菅原文太特集」が出されたことが書かれていた。それから本屋に入るとそれを探したが、先日大きな書店でようやく入手した。
そこには主として2種類の文章があった。1つはヤクザ映画の俳優として高倉健などと比較した評価で、もう1つは最近の平和運動への共感だった。高橋源一郎の文章は、自分の高校時代の広島旅行に始まって、『仁義なき戦い』の特徴に触れ、それを後年の反戦活動に繋げていた。
高橋の文章を読んだ時は、ちょっと出来過ぎた話だと思った。反戦の意志があったからあの映画に出たわけではないし、あの映画のアナーキーさに触れたから、菅原が変わったわけでもないだろう。
『現代思想』と言えば、1980年代前半に学生生活を送った私にとっては、「教典」のようなものだった。当時から高かったかれど、「デリダ特集」とかあると、無理して買った記憶がある。今回『現代思想』を買ったのは、たぶん30年ぶりくらいのような気がする。
もちろん菅原のやくざ映画論よりも、高橋の書く「知性」を探した。そこでわかったのは、どうも亡くなる少し前の11月1日の沖縄知事選での翁長現知事の応援演説がすごかったらしいということ。これが菅原の最後の講演で、今頃になってYoutubeで見て驚愕した。
まだ見ていない人は、11分強なのでリンクで見て欲しい。親しみやすく、簡潔でわかりやすい。ユーモアもある。1万5千人を超すという会場が、沸きに沸いている。時おり、どよめきのような音が聞こえる。
「政治の役割は二つあります。1つは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もう一つは、これが最も大事です。絶対に戦争をしないこと!」。ここで「おーっ」とどよめきが起こる。
この演説にはいくつもの山場があるが、それは見てもらえばいいので書き写さない。ほかにもYoutubeにはいくつか菅原の演説があるので聞いてみたい。
この映像は、文章で読むより何倍も力がある。亡くなる直前に力を振り絞って、しかし快活に話している様子と共に、聴衆の反応が胸を打つ。菅原文太の、最後の渾身の演技である。映画から生まれた広い意味での「映像」は、映画館を越えてこうした役割を演じているのだとつくづく思った。
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