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2015年5月 8日 (金)

古典に驚く:その(1)『共産主義者宣言』

大学で教えていると、授業の準備でいわゆる古典を再読することが多い。するとその現代性にあっと驚くことがある。最近の一番は、カール・マルクスの『共産主義者宣言』。かつては『共産党宣言』と訳されてきた。

平凡社ライブラリー版(オリジナルは太田書店)でなぜ題名を変えたかについては、付論の形で柄谷行人が解説している。ドイツ語の原題は確かに「共産党宣言」だが、英語版は「共産主義者宣言」The Communist Manifestoであり、原著の出された1848年当時には「共産党」はなく、できたのはロシア革命後であるかららしい。

確かにこの本の普遍性を考えると、共産党という現存する政党の名前でない方がいい、と読み終わって思った。そのくらいこの本はそのまま現代に通用する。

「ブルジョア階級は、世界市場の開拓を通して、あらゆる国々の生産と消費を国籍を超えたものとした。反動派の悲嘆を尻目に、ブルジョア階級は、産業の足元から民族的土台を切り崩していった。民族的な伝統産業は破壊され、この新たな産業の導入がすべての文明国民の死活問題となる。そうした産業はもはや国内産の原料ではなく、きわめて遠く離れた地域に産する原料を加工し、そしてその製品は自国内においてばかりでなく、同時に世界のいたるところで消費される。国内の生産物で満足していた昔の欲望に代わって、遠く離れた国や風土の生産物によってしか満足されない新しい欲望が生まれる」

この一節を読むだけでも、ユニクロやH&M、あるいはコンビニが支配する現代が如実に描かれていないか。先進国の企業が途上国で安い賃金で生産し、世界中に売る。世界中の人々はそうしたブランドに憧れる。そして各地の産業を二重、三重に破壊してゆく。

「ブルジョア階級は、すべての生産用具の急速な改良によって、限りなく容易になった交通によって、あらゆる民族を、どんな未開な民族をも、文明のなかに引き入れる。彼らの廉価な商品は、それをもってすれば、万里の長城をも破壊し、未開人のどんなに頑固な外国人嫌いも降伏させることのできる大砲である。かれらはすべての民族に、存続と引き換えに、ブルジョア階級の生産様式の採用を強制する」

これが書かれた1848年は、ようやく欧州各地に鉄道ができ始めたころである。もちろん飛行機はない。最初のロンドン万博はその3年後だし、日本にペリーの黒船が来るのは5年後だ。そんな時代にユニクロの世界を予言するとは。

もうそろそろこの世界から、次の世界へ移れないものか。そんなことを考えた。この本は前半はおもしろいが、後半は尻切れトンボな感じに終わる。

「共産主義者は、かれらの目的が、これまでのいっさいの社会秩序を暴力的に転覆することによってしか達成され得ないことを公然と宣言する。支配階級よ、共産主義革命の前に慄くがいい。プロレタリアには、革命において鉄鎖のほかに失うものは何もない。かれらには獲得すべき全世界がある。
全世界のプロレタリア、団結せよ!」

ネットの時代だから、その「団結」ができそうな気がするが、世の中はなかなか動かない。

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