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2015年5月24日 (日)

今回の「大英博物館展」の楽しみ

もう「大英博物館展」や「ルーヴル美術館展」はいらない、というのが私のこの数年来の主張だけれど、6月28日まで上野の東京都美術館で開催中の「大英博物館展」は意外におもしろかった。「100のモノが語る世界の歴史」というが、まさに人類文明の歴史を感じさせる構成だ。

大きな展示品は少ない。むしろ小さなオブジェが多いが、200万年前から現代までという驚異的な時間の幅にまたがる世界各国の「モノ」を一挙に見せる。「美術」というよりは、「証拠品」に近い。

我々が通常「美術館」で見るのは、19世紀以降のいわゆる「美術」が多い。つまり作った画家や彫刻家の名前が明示されていて、その作家特有のスタイルがある。あるいはその時代や地域に流行した様式がある。ところがこの展覧会では、「作家」名はまずない。「作品」として誰かに売ろうとか、どこかの「美術館」に買い取ってもらおうとかいうものも、たぶんない。基本的には「作家」のいない実用品ばかり。

冒頭に並ぶのは、紀元前600年前の古代エジプトの棺と、現代のガーナのビール瓶やナマズの形の棺。この一見ふざけたような組み合わせがこの展覧会を象徴している。それから紀元前200万年前のアフリカの石器に始まって、世界各地の槍やかごや器が出てくる。日本の縄文土器もあるし、中国やトルコ、ドイツなど出土先はさまざま。

そこまでが第1章の「創造の芽生え」で、次の第2章は「都市の誕生」で、紀元前3000年くらいから紀元前1000年くらいまでだが、一番の見ものはイラクの《ウルのスタンダード》。メソポタミアの古代都市「ウル」で王家の墓から見つかった箱らしいが、宴会の様子や戦争の場面などが、細かく書かれている。用途が不明というのもいい。

第3章が「古代帝国の出現」で、アッシリアやローマ帝国。第4章「儀式と宗教」に至ってようやく紀元に入る。ここはアメリカ先住民やマヤ文明、ペルシャ文明など。第5章「広がる文明」は中国の唐やペルーのモチュ文化が中心。第6章はアステカ文明にトルコの陶器に明の紙幣にデューラーの木版画《犀》。

だんだん訳がわからなくなってくるけれど、この展覧会で一番驚いたのは第7章「大航海時代と新たな出会い」にあった「初めての世界通貨」(ピース・オブ・エイト)。16世紀にボリビアとメキシコで作られたものだが、こんなに早く世界通貨があったなんて知らなかった。

展覧会は第8章「工業化と大量生産が変えた世界」で終わる。ここには19世紀以降の品々が並ぶ。ヴィクトリア朝のティーセットから、ロシア革命の絵皿、そして最近のインドネシアで作られたサッカーユニフォームのコピー商品やアラブ首長国連邦のクレジット・カードまで。

これを見ていると、「近代」「美術」「作家」といった概念に凝り固まった頭がほぐされる思いがした。

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