『ローリング』の快い齟齬感
6月13日に公開される冨永昌敬監督の『ローリング』を見た。盗撮事件を起こした元教師が、10年後に戻ってきて教え子に恋人を取られてしまうというストーリーが気になったからだ。自分が教師になったせいか、学校の先生の転落モノに惹かれてしまう。
結論から言うと、バカバカしさと紙一重の不条理な世界の齟齬感が妙に心地よかったし、全体として映画らしい躍動感に満ちていた。
冒頭、夜の街を中年男が女を連れて走って逃げる。それを追いかける数名の若者たち。全編を水戸でロケしたというが、地方都市らしい野暮ったさが何とも映画的な光景を形作っている。
時おりつぶやきのように出てくる、河瀬陽太演じる元教師のナレーションが抜群におかしい。「つまらない話ですが、私は教え子に女を取られました」「私は40を過ぎてから不良になりました」「教師なんて私には向いていなかった」
元教師が連れてきた若い恋人(柳英里沙)と出来てしまう教え子を演じる三浦貴大が、妙にリアルでいい。ふたりが告白しあってキスをし、関係を持つシーンには思わずドキドキしてしまう。
それからの展開はほぼ予測不可能だ。元教師はどんどん滅茶苦茶になるし、教え子たちは盗撮映像を見つけて恐喝を始めるし。芸能事務所や弁護士や元刑事や太陽光発電などもからまって、とんでもない騒動になる。そして唖然とするような結末。
水戸は何度か行ったが、これほど魅力的な街だとは思わなかった。繁華街は人間サイズだし、近くには池や森もある。ちょっと生ぬるいような、レトロな感じがいかにも住みやすそうだ。この映画自体はとんでもない妄想の産物なのに、この街全体を呼吸するようなリアリズムで作られている。
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コメント
『ローリング』見てきました。快い、心地よい齟齬感の意味がわかりました。笑 冨永監督自身にもご挨拶して来ました。
投稿: さかた | 2015年6月14日 (日) 01時14分
香菜子と言います。教師が転落人生を歩むという内容なので、ローリングは嫌われ松子の一生に似ていると感じました。私も人の事を言えませんが、教師は世間知らずの非常識になりやすいので、横柄で傲慢高飛車な人格になって運が悪いと転落人生になりがちなのではないかしらと思います。私も横柄で傲慢高飛車にならないように、ローリング香菜子や嫌われ香菜子の一生にならないように、地道に誠実にと思います。香菜子
投稿: 香菜子 | 2016年7月28日 (木) 02時55分