『イニシエーション・ラブ』の80年代に考える
堤幸彦監督の『イニシエーション・ラブ』を劇場で見た。この監督の映画は、実は個人的にはあまりピンと来ない。それでも見ようと思ったのは、日活のTさんと朝日新聞のIさんが勧めたから。
1980年代が舞台というのも惹かれた。まさに自分の学生時代の大学生を描いたというので、気になった。
映画は、この監督としては好感が持てた。1980年代の若者たちの雰囲気がよく再現されていて、演出そのものさえも80年代のようなある優しさというか、かったるい感じがうまいと思った。
1987年7月。静岡のダサい学生の代表のような鈴木夕樹(森田甘路)は合コンで出会ったOLの繭子(前田敦子)に恋をする。あろうことか、繭子も自分を気にいってくれて、2人はつきあうことに。彼女のために夕樹は痩せようと一大決心をする。これがA面。
B面は、痩せてハンサムになった鈴木を松田翔太が演じる。彼は大手メーカーに決まっていたのに繭子のために地元の会社に就職するが、東京への転勤が決まる。鈴木は最初は毎週末静岡に帰るが、次第に足が遠ざかる。職場では美弥子(木村文乃)に出会って、仲良くなってしまう。
最後の10分でこのA面とB面が合わさって、驚くべき真実が露呈するという仕掛け。この作りがかなりうまいし、それ以上に音楽に始まってあらゆるディテールに80年代が詰め込まれていて、当時を知っている者にはいかにもいかにもという感じ。
とりわけ地方都市にいた私には、前田敦子演じる田舎の(一見)純朴そうな女性と、都会の女性の違いがおもしろかった。それでも、どこか楽しめなかった。それは、私自身が80年代に流行っていたすべてが当時からニセモノに見えて大嫌いだったからだろう。
DCブランドの肩パットの入ったジャケットや襟を立てたポロシャツ。ハイレグの水着にソバージュというパーマ。ナイキの派手なスニーカー。何より学生のくせに彼女を車に乗せて海に連れてゆくという、ユーミンの歌のような行動が信じられなかった。この映画のモチーフにもなっている寺尾聰の『ルビーの指輪』という曲は、今でも気持ち悪い。
病気と留学と大学院で3年遅れた私が就職したのは1987年だから、この映画とぴったり同じ。福岡からパリへ行き、1年間過ごした後に1986年に東京に出てきた私は、すべての若者の流行を憎悪して、ひとりで古い映画ばかり見ていた。さぞかし嫌な奴だったろう。
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コメント
号泣したね~
投稿: 石飛徳樹 | 2015年6月19日 (金) 09時55分