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2015年6月12日 (金)

スクリプターという仕事を考える

白鳥あかね著『スクリプターはストリッパーではありません』が抜群におもしろかった。そもそも映画のクレジットは「製作総指揮」を始めとしてよく内実がわからないものが多いが、私にとっては「スクリプト」「スクリプター」もその一つだった。この本を読めば、その重要さがわかる。

スクリプターは撮影現場の記録係だが、この本を読むと同時に監督助手や場合によっては監督の相談相手を務めるという。この本によれば、「スクリプターの仕事というのは記録することだけじゃなくて、やはり、監督にとっては、最良のアドバイザーであるということですね」。だから一緒に仕事をした監督やその撮影現場の話をさせると、誰よりも一番細かい。

白鳥さんは、序文で聞き手の高崎俊夫氏も書いているが、私もてっきり日活ロマンポルノ以降に活躍した人だと思っていた。神代辰巳監督の追悼特集などのトークショーにいつも出ていたからだ。ところが1955年、つまり日活の製作再開の翌年から日活で働いており、「渡り鳥シリーズ」の斉藤武市を始めとして中平康、西川克己、今村昌平といった監督と次々に仕事をしている。つまりは日本映画の黄金時代の一角を担った人だった。

すごいのは、ロマンポルノの後期からは自分よりも若い根岸吉太郎や池田敏春などと組み、さらには岩井俊二、篠原哲雄、成島出らとまで仕事をしていることだ。最後のスクリプター作品は2004年の根岸吉太郎監督『透光の樹』。こうなるともう、日本映画の匠の伝承者に近くなる。

おもしろいエピソードは数限りない。これはもう読んでもらうしかないが、いくつか紹介したい。「当時、日活は各社から給料を四倍出すからと言って引き抜いて、十一人のスクリプターを集めていて、私は十二人目でした」。小津安二郎は自分についていた斉藤武市が日活に行く時に「今村も連れて行ってやってくれ」「だけど、そのまま松竹にいたのでは、今村昌平は育たないと思ったのではないですか」

「松竹システムで私を教育してくれた」斉藤武市監督の現場では、今村昌平がチーフ助監督でセカンドが浦山桐郎。撮影が終わると今村は助監督を引き連れて飲みに行く。浦山は「泣き上戸で酒が入ると泣き出すわけ」「それで今村さんが、「浦山、もっと泣け!」と叫ぶと、浦山はいっそう声を上げて泣くんです。私は恥ずかしくてしょうがないんですけど、今村さんと浦山さんは全然平気で、それをえんえんと繰り返すの」

引用はこれくらいにするが、全体を読み通すと、羨ましいほど楽しそうな映画人生だなと思う。もちろんこれは、聞き手の高崎氏の豊富な知識と巧みな話術があって引き出したものだけれど。

ちなみに本の題名は、神代辰巳監督の『濡れた欲情 特出し21人』の信州のストリップ小屋のロケから出ている。打ち上げの時に、ストリッパーたちと盛り上がった白鳥は上半身裸で踊った。その話は日活の撮影所にすぐ伝わり、先輩スクリプターの秋山みよから「あかねさん、スクリプターはストリッパーではありません」と叱られたという。何とおおらかな時代だろう。

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