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2015年6月 7日 (日)

シャルフベックの軽やかな重さ

北欧というのは、たまに実に個性的な芸術家が出てくる。映画だとデンマークのカール・ドライヤーとラース・フォン・トリヤー、スウェーデンのイングマール・ベルイマンにロイ・アンダーソン(8月公開の『さよなら、人類』!)、フィンランドのアキ・カウリスマキ。美術だと、ノルウェーのアドヴァルド・ムンクにデンマークのヴィルヘルム・ハンマースホイあたりか。

彼らの共通点を考えてみると、徹底的な孤独の表現が浮かび上がる。もちろんそれは、わずか数人の天才たちの特徴であっても、北欧のアートや映画の全体には当てはまらないかもしれないし、そもそも私はそのどの国にも行ったことがない。

それでも、今回東京芸大美術館で始まったばかりの「ヘレン・シャルフベック展」を見た時に、再び「徹底的な孤独」を感じだ。実をいうと、1862年生れで1946年まで生きたこの女性画家は名前すら知らなかった。ところがまとまって見ると、なかなか魅力ある画家だった。

ほぼ同時代のムンクのような強烈な個性はない。むしろ、肖像画を中心に軽やかに描いたような絵が中心だ。若い頃にパリに行ったこともあり、ポスト印象派の画家たちの影響が色濃い絵画も多い。一番近いのはボナールだろうか。

30歳を過ぎてからはヘルシンキ郊外に母と住んだせいもあって、人物や静物を凝視したような彼女独特の静謐さを湛える絵画が多い。描かれた人々の多くは、何気ない表情だがその奥に誰にも言わない悩みを抱えているような感じか。

例えば《お針子(働く女性)》と題された絵は、揺り椅子で目を閉じて休む女性を描く。彼女のうちに、疲労だけではない何かがあるのはわかるが、それは決して口に出さない感じが伝わってくる。《赤いリンゴ》は一見セザンヌのようだが、形を追求するのではなく、そこに流れる明るい空気を表現したかのよう。

展示されているのは84点で、この美術館の3Fしか使っていない小ぶりの展覧会だが、その絵画に漲る静かな力は一見の価値がある。たぶんこの機会を逃すと、もう日本には来ないだろうし。この展覧会は、東京の後、仙台、広島、葉山に巡回。

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