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2015年6月13日 (土)

『トイレのピエタ』の衝撃

松永大司監督の『トイレのピエタ』を劇場で見て驚いた。第一回長編劇映画というが、久しぶりに天才が現れたと思った。出だしの高層ビルの窓拭き仕事のシーンから、すべての映像が躍動している。

物語は、突然ガンで余命3ヶ月と宣言された20代後半のフリーターの園田が、女子高生の真衣と出会い、死ぬ前にピエタ像を描くというもの。こう書くとお涙頂戴のようだが、展開は絶えず予想を裏切り、どこへ向かうのかもわからない。

無気力の極みのように見えて、奥に強い何かを抱え込んだような園田を演じる野田洋次郎がいい。ロックバンドの歌手というが、周囲の虚栄や見え透いた善意を見通し、スタスタと歩いてゆく。そんな男が、杉咲花演じるギラギラの反抗心を見せる真衣に出会い、少しずつ変化する。2人のかみ合わない会話が心地よい。

一番印象に残るのは、プールのシーン。何を思ったのか、真衣は金魚を大量に買ってプールに放ち、泳ぎ出す。金魚の向こうで泳ぐ真衣は強烈だ。2度目は夜で2人ともプールで泳ぐ。あるいは真衣が陸上競技で全力疾走して倒れたり、猛烈なスピードで自転車を漕いだりするのをカメラは追い掛ける。

そうした場面は長回しで撮られているが、それが本当に画面を生き生きとさせている。こんなにきらめくような映画は、相米慎二監督の『ションベンライダー』以来ではないかと思ってしまう。

園田が入院する病院で、隣のベッドの男を演じるリリー・フランキーもうまい。例によって何を考えているのかわからない男で看護婦を動画に撮ったりしているが、終盤は絵を描く園田を助け、その姿を撮る。

園田の両親が大竹しのぶと岩松了、医師が古舘寛治、彼を慕う病気の少年の母が宮沢りえ。新人監督にしては豪華すぎるメンバーが脇を固めているが、あえて言えば彼らが少し個性が出過ぎている感じがある。

オリジナルの脚本も松永監督が手掛けているが、脚本、演技、撮影などすべてが溌剌としていて、見ていて最後まで絶えずドキドキする。今から次の映画が楽しみになった。今のところ、今年の邦画で最も注目すべき作品だろう。

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