『ソレダケ』の疾走感
石井岳龍監督の新作『ソレダケ/that's it』を劇場で見た。フェイスブックでホメていた人がいたし、「朝日」で山根貞男氏が好意的な評を書いていたから。実はこの監督の『生きてるものはいないのか』(12)を見て、もうダメかなと思っていた。
ところが、今回は昔の『狂い咲きサンダーロード』(80)や『爆裂都市』(82)の頃を思わせるロック魂が爆発している。それらの映画と同様に内容はよくわからなかったが、画面に漲る疾走感が心地よかった。前半はほとんどモノクロだが、濃淡の際立つシャープな画面は久しぶりに見た気がする。
何より今が旬の俳優たちが輝いている。とりわけ主人公・大黒を演じる染谷将太が抜群だ。なぜ追われるのかわからぬままに追われ、捕まり、また逃げてゆく若者を演じているが、華奢なのに強情で筋を通す感じがピッタリ。
彼に立ちふさがる男たちもいい。ハードディスクを盗まれた強持ての男・恵比寿(渋川清彦)といい、謎の裏社会のインテリ風の猪神(村上淳)といい、バカバカしくてたまらない。極めつけはボスの千手(綾野剛)で、千手深水という奇妙な建物に住み、怪しげな格好をした子分たちが取り巻く。
冒頭からヘビメタの和製ロック(ブラッドサースティ・ブッチャーズ)が鳴り響く。これまた石井の昔の映画のようだ。みんな幸せそうに暮らしているけど、実は今の日本の閉塞感は昔の比じゃないぜ、とでも言いたげな石井節が聞こえて来るようだ。
昔、石井聡互だったころの石井さんをパリで案内したことがある。1985年の春で、彼はベルリン国際映画祭で『逆噴射家族』が上映された後、しばらくロンドンに住んでいたはずだ。一緒にゴダールの『ゴダールのマリア』とラース・フォン・トリヤーの『エレメント・オブ・クライム』を見た。『エレメント・オブ・クライム』にしきりに感心して、日本で公開するよう配給会社に話すからと言っていた。
今回の映画には、『エレメント・オブ・クライム』のような、バカバカしい暗黒社会の力が漲っていると思った。石井さん、この調子で突き進んでください。
そういえば、映画館では観客にこの映画のステッカーを配っていた。部屋のどこに貼るか考えている。
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コメント
ぼくも、テアトル新宿で2回ほど見てしまいました。一回目は、会員価格で、二回目はリピーター割1000円でと。ステッカーも二枚頂きました。笑 思わず、パンフレットに手が伸びてしまい購入したのですが、制作期間裏側の事が事細かに年表順に記されていて、面白かったです。メイキング上映の日でもあったので、メイキングも見たのですが、なかなかの小規模であそこまでの作品が。。。作品全体として鳥肌が立ちました。
投稿: さかた | 2015年8月10日 (月) 03時07分