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2015年7月 5日 (日)

巨匠監督のトンデモニッポン

かつては、日本で見られない外国映画を見るには海外に行くしかなかった。だから30年前に私はパリに留学したが、今ではアマゾンのワンクリックで、1週間もすればDVDが外国から届く。最近見たのは、フリッツ・ラングの『ハラキリ』(1919)とマックス・オフュルスの『ヨシワラ』(37)で、共に巨匠が描くトンデモないニッポンとして知られる映画。

外国人が映画で日本をどう描いたかを調べていて、どうしてもこの2本を見たいと思ったが、こんなに簡単に入手できるとは。そのうえ、画像も相当に鮮明。『ハラキリ』はオランダのアーカイブで見つかった美しい染色版だ。

どちらも当時は日本では公開されず、『ヨシワラ』に至っては戦後に公開されて「国辱映画」扱いを受けたというが、今落ち着いてみるとなかなか悪くない。『ヨシワラ』は早川雪洲と田中路子が出ているがあとはすべてフランスの俳優、『ハラキリ』はすべてドイツの俳優なので、もちろん日本人として違和感はある。

撮影もフランスやドイツのスタジオなのだが、思いのほかきちんと日本が再現されている。それ以上にどちらも映画としてよくできている。『ハラキリ』は「蝶々夫人」の翻案とクレジットに出るが、プッチーニのオペラではなく、その元になったジョン・ルーサー・ロングの短編小説「蝶々夫人」とこれを戯曲化したデーヴィッド・ベラスコの「蝶々夫人」のことらしい。

いずれにしても、「蝶々夫人」よりもより映画的な脚本になっている。オタケさんの父である長崎の大名のトクヤワは、欧州旅行から帰り娘に欧州みやげを渡す。しかし彼はその自由な態度が嫌われて、天皇から刀をもらい自死を命じられる。

オタケさんは「聖なる森」(尼寺のことか)に入るよう命じられるが、そこからヨシワラに売り飛ばされる。そこへ来たヨーロッパ人のオラフ・アンダーソンはオタケさんに一目惚れし、お金を払って身請けする。ふたりは幸せな日々を送るが、オラフは妻の待つヨーロッパへ行ってしまう。

オタケさんはオラフとの子供と女中のハナケと毎日海岸に出てオラフを待つ。ここからは蝶々夫人とほぼ同じ。最後にオタケさんは父と同じ刀でハラキリをするというのが、なかなかうまい。そのうえオラフが不在の時に、オタケさんを守るマタハリ王子という人物が出てくるなど芸が細かい。

大きな池のある大名の家には鳥居があったり小さいが大仏もあって、本当に日本で撮影したようだ。そして終盤、オラフとの再会に一喜一憂するオタケさんの表情の変化は心に残る。

数名のアジア人のエキストラを除くと主要人物はドイツ人だし、トクヤワ、ハナケ、マタハリなど変な名前も多いが、映画として見れば極めてラングらしい装飾過多の異常な世界を構築している。ラングは若い頃に日本に旅行したらしく、『メトロポリス』(27)にも『スピオーネ』(28)にも日本の要素が出てくるが、日本そのものを取り上げたのはこの作品だけ。

『ヨシワラ』については後日書く。

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