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2015年7月14日 (火)

『バケモノの子』の描く渋谷

細田守監督は『おおかみこどもの雨と雪』がかなり好きだったので、『バケモノの子』を劇場に見に行った。もともとアニメは見ない方だったが、大学で教えているとそうも言えない。それにここ数年話題作を見ていると、だんだんおもしろくなった。

見たのは渋谷のTOHOシネマズ。ここにはめったに行かないが、この映画は舞台が渋谷と聞いたのでおもしろいかなと思った。平日昼間の夕方なのに、何と満席。中学生や高校生が多いが、意外に静かだった。

確かに渋谷で見て良かった。映画館のすぐそばの109や道玄坂一帯、センター街などが店舗に至るまで克明に描かれていた。主人公の蓮(れん)は、両親がいなくなってひとりで道玄坂の細道を歩くうちに異界にたどり着く、というのが出だし。

映画としては、『おおかみこどもの雨と雪』の叙情性というか切なさには及ばなかった感じ。『おおかみこども』はオオカミとの子供を人間の母親が育てる話だったが、今回は孤児同然の少年が、バケモノ界に紛れ込んで熊の格好をした熊徹に育ててもらうというもの。

そこには生みの母の健気さはなかったが、師弟の物語のおもしろさがある。共に直情型で不器用だがいい奴というパターン。とりわけ9歳から17歳まで少しずつ大きくなる様子を1つのカットで見せるシーンには惚れ惚れした。そして17歳の蓮(異界では九太)がそこにいる。

彼は人間界に戻り、女子高生の楓と知り合い、漢字を習う。なぜか『白鯨』の翻訳を読みながら。ふたりの間の淡い恋。そこまではいいのだけれど、異界では熊徹がライバルの猪王山と対決し、それから派生して蓮は猪王山の息子と渋谷を舞台に対決するというアクションが始まる。

アクション自体は迫力満点だしとりわけ渋谷の戦いの鯨の映像は目を瞠るけれど、なぜ戦うのかというのがどこかわからない。特に猪王山の息子は、実は人間で心の奥に闇をため込んでいたというキャラクターの意味がわからない。

それでも蓮や楓のような若者の持つ孤独の表現には胸を突かれたし、渋谷の詳細な再現も楽しかった。最後に主人公たちは副都心線で逃げようとするが、明治神宮前で列車は止まってしまう。異界の動物たちの社会も見ていて楽しかったし、建物や風景がどこか南欧風なのも見ていて心地よかった。

映画を見終わって、異界への道はないかと、思わず道玄坂あたりを歩いてみた。一瞬だけ、少年に戻った。

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