« 「うっかり」から認知症へ | トップページ | 風刺画で見る黄禍論 »

2015年7月 9日 (木)

オズペテク映画の感情のほとばしり

『あしたのパスタはアルデンテ』(10)でようやく日本でも知られるようになったフェルザン・オズペテクは、トルコ出身でイタリアで活躍する監督。春のイタリア映画祭でも上映された『カプチーノはお熱いうちに』が9月に公開されるというので、試写を見に行った。

「イタリア映画祭2003」で上映した『無邪気な妖精たち』(01)の時からそうだが、この監督は感情のほとばしりを描くと抜群にうまい。イタリアの街をカメラが流麗に動き回り、激情の行方を追う。そこにぴったりの音楽が流れる。

この映画は冒頭で男女の出会いを描く。大雨の満員バス停でのいざこざで、ふたりは罵り合う。エレナはカフェで働いており、彼女を追ってきたアントニオはじっと見つめる。

アントニオがカフェでビールを注文して去って行った後、エレナは無我夢中で追いかける。その時の感情の高鳴りといったら。そしてバイクに乗せてもらって海へ行く。

そのうえ、この監督は見事なストーリーテラーだ。一見似合わない男女の出会いを描いたかと思うと、13年後に話は飛び、その後を描く。彼らは結婚して子供は2人。エレナは念願のカフェを経営しているが、夫とは喧嘩ばかり。どこにでもある風景だ。

伯母に誘われて乳がんの検診を受けたことから、すべてが変わる。医者からの診断を聞いた後に、一人で立ち尽くして泣きだすシーンは、まさに感情のほとばしりそのもの。

ちょっとマイナーな存在を何人も登場させるのもオズペテクらしい。まず夫のアントニオはいささか下品でおよそ知的ではない。離婚を繰り返す伯母もちょっと普通じゃない。病院の隣のベッドのエグレもかなりおかしい。そんなヘンな人々が大らかな人間性を振りまき、周囲を温かく包む。

そして終盤でさらにひとひねりを見せる。いやはやうまい。見終わると、ポッと心が温かくなった自分に気づく。この監督は、一作ごとにどんどん円熟味を増す感じだ。ひょっとして、ガブリエレ・ムッチーノのようにハリウッドに行くのではないか。

もうひとつ。13年間の人々の老い具合がうまかった。とりわけ夫婦が20代から30代へ移った感じがよく出ていたし、エレナはさらにそこから病人をも巧みに演じるのだから。

|

« 「うっかり」から認知症へ | トップページ | 風刺画で見る黄禍論 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/61859231

この記事へのトラックバック一覧です: オズペテク映画の感情のほとばしり:

« 「うっかり」から認知症へ | トップページ | 風刺画で見る黄禍論 »