« 早川雪洲ふたたび | トップページ | 「われらデザインの時代」が終わった »

2015年8月17日 (月)

またまたオゾンを楽しむ

フランソワ・オゾンという監督は、どの作品を見てもハズレはない。才気煥発で見ていて退屈しないし、見終わるとなかなか奥が深いと思う。そんなオゾンでも今回の『彼は秘密の女ともだち』は特にいい、と誰かが書いていたので、劇場に見に行った。

まず、冒頭の展開のうまさに舌を巻いた。真っ赤な紅を塗る唇のアップに始まって、だんだんとそれが花嫁衣裳の準備だとわかる。だがちょっと変だ、と思ったらその女性は棺の中にいる。教会の葬式で死んだ女友達ローラについて泣きながら語るクレール。

それからふたりの出会いから今日までが数カットで示される。葬式後しばらくたってクレールがローラの夫ダヴィッドに会いに行くと、彼は女装をして赤ちゃんを抱いていた。

この衝撃のショットまで5分強だろうか。あれよあれよという展開で、観客を一挙に物語の中に押し込んでしまう。それからは女になりたいダヴィッドとそれを支えるクレールを中心に、また二転三転。最後に7年後のシーンが出てきた時は、そのうまさに唸った。

この映画が『17歳』や『危険なプロット』よりも心に響くのは、うまいだけではなくて、ある種の強いメッセージを持っているからだろう。女同士が少女時代からずっと仲がいいこともあれば、結婚したのに女装が好きな男性もいる。そして女装した男性を好きになる女性もいる。それらは男女の普通の結婚と両立しうる。

何でもありの人間関係を普通に感じられるように、できるだけ丁寧に描きたいという意思がこの映画には感じられる。もちろんオゾン監督はゲイを公言しているけれど、この映画にはそれを越えた大きなヒューマニズムが込められている気がする。

女装に走るダヴィッドを演じるロマン・デュリスが抜群にいい。ローラとショッピングをするシーンの楽しさといったら。そしてローラ役のアナイス・ドゥムースティエの表情や服装の変化も繊細でうまい。

個人的には、姉が4人もいる家庭に育ったので女装に違和感はない。小さい頃は姉たちのように可愛いスカートをはきたいと思っていた。ところが厳格な父親は、そういう発言をしようものならすぐに大声をあげて怒ったので、そのままになった。こんな映画を見るとその願望が蘇るかと思ったが、なかなかそう簡単ではない。

映画で気になったのは、どう見てもパリではなさそうだし、都市の名前も出てこないことだ。クレジットにロケ地としてカナダのケベックも挙げられていたから、あの大きな家はカナダで撮ったのだろう。あとはパリ郊外の土地名が出てきたが、ある種「どこでもない場所」にして、ファンタジーを作ったのかもしれない。

|

« 早川雪洲ふたたび | トップページ | 「われらデザインの時代」が終わった »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/62099177

この記事へのトラックバック一覧です: またまたオゾンを楽しむ:

« 早川雪洲ふたたび | トップページ | 「われらデザインの時代」が終わった »