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2015年8月16日 (日)

早川雪洲ふたたび

このブログでは『チート』(1915)や『ヨシワラ』(37)、『東京暗黒街 竹の家』(55)など、早川雪洲が出る外国映画に何度か触れたけれど、最近、彼の若い頃のサイレント映画のDVDを2枚入手した。『蛟龍を描く人』The Dragon Painter(1919)と『死線の勇者』The Tong Man(19)の2本。

どちらもアメリカ版で日本語字幕はないが、充実した内容だった。2本共に雪洲自らが作ったハワーズ・ピクチャーズ社の製作のため、雪洲をヒーローとして描きながらも、アメリカ人の監督(どちらもウィリアム・ワーシングトン)による、アメリカ人にもわかりやすい作りになっている。

『蛟龍を描く人』は、冒頭に大きな滝の下で破れた和服を着て一心不乱に絵を描くタツ(雪洲)がいる。Hanakeと写るが、箱根のことか。彼は千年前に去った恋人を探して絵を描き続けている。東京では、絵師の伝統ある狩野家を継ぐ狩野インダラ(?=エドワード・ピール)が跡継ぎを探していた。

タツに目をつけた狩野の友人は、どうにか狩野の家まで連れてくるが、タツは一切関心を示さない。ところが狩野の娘の梅子(青木鶴子)が日本舞踊を踊ると、一挙に魅了されて狩野家の婿養子になった。立派な服を着るタツだが、恋人が見つかるとタツは絵を描く気がなくなってしまう。思い余った梅子は姿を消し、タツは再び絵を描き始める。そして有名になったところで、梅子が再び現れる。

滔々と流れる滝の下で、狂ったように絵を描く野生溢れる雪洲の姿がいい。一方で高級な和服を着ると、何とも上品で美しい。自分の男性的魅力を知り尽くしている感じか。妻の青木鶴子も、夫のために身を捨てる役割だし、優美に踊る場面もあって、いかにも日本女性らしい。襖が左右に開いて彼女が舞った瞬間に、雪洲の喜ぶ顔がアップになる。

滝はヨセミテ渓谷らしいが、なかなか日本風だし、狩野家の中などきちんと日本が再現されている。この映画の唯一の欠点は、タツの描く絵がいまひとつピンと来ないことではないか。原作者のメアリー・マクニール=フェノロサは、明治期日本にやってきてボストン美術館に日本美術を持ち込んだアーネスト・フェノロサの妻だから、ボストン美術館から横山大観の絵などを借りればよかったのに。

絵がテーマになるだけでなく、青木はよく鏡を見るし、彼女の踊るシーンは両脇に襖があって真四角。踊りの後に雪洲が追いかけようとすると襖はぴしゃりと閉まる。こんな枠構造がいくつも見出せる。そのうえ彼らの月夜の逢瀬は幻影のようだし、青木が雪洲の枕元に現れるなど、映画の本質的な揺らぎを十分に計算している。

プリントはジョージ・イーストマン・ハウスのものだが、染色も含めて抜群にいい。驚くべきことに、このDVDには特典映像として『火の海』(The Wrath of the Gods, 14)が入っていた。この映画と『死線の勇者』については、後日書く。

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