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2015年8月25日 (火)

日本映画史最大の差別の映画:『地の群れ』

学生が12月に企画する映画祭が「ニッポン・マイノリティ映画祭」と決まって、私自身もいくつか未見の映画を見ている。最近DVDで見たのは、熊井啓監督『地の群れ』(1969)。いやはや、これは究極の日本のマイノリティを扱った映画だった。

医師役の鈴木瑞穂が主人公のように出てくる。このひたいの広い俳優はだいたい医者や弁護士の正義感役が多いので、安心していたら、話が進むにつれて問題だらけだった。

彼はかつて炭鉱で朝鮮人の少女を妊娠させていた。少女の姉に迫られるが逃げる。そもそも、本人は被差別部落の出身で、それを言わずに結婚。子供はいらないと言って、妻(松本典子)を悲しませ、ウィスキーを昼間から飲む。

彼の患者の一人は原爆症が出ている娘。しかし母親(奈良岡朋子)は、そんなことはありえないと否定する。彼のところに診察に来た別の娘(紀比呂子!)は、強姦された証明書を書いて欲しいと言うが、詳細は語らない。自らが被差別部落出身で、自分のことはすべて口を閉ざす。

強姦された娘は、その相手が原爆被害者の集落「海塔新田」に住む男と知り、家を突き止める。犯人の父親(宇野重吉)は相手が部落出身とわかり、追い払う。娘の母(北林谷栄)は復讐に向かい、犯人の父親に向かって「私たちはエタやけど、あんたたちは血の腐っとる」と言い放つ。そして母は新田の者たちから石を投げられる。

舞台は長崎の佐世保。炭鉱の町で、被差別部落民が多く働いている。戦後は長崎の原爆被害者の集落があって、部落民とは仲がわるい。そして今では基地があり、米兵がいて戦闘機の音が聞こえる。井上光晴の同名原作の映画化だが、よくこんな題材を映画にしたと思う。

そのうえ、白黒の画面は長いショットが多く、暗闇を覗いているような、暗澹たる気分になる。この映画が作られたのは1970年だが、北林谷栄が同じような差別される母役で出ている『橋のない川』は第1部が同年で、第2部が翌年。そういえば、こちらの映画にも北林が孫が学校で差別されたことに怒って、職員室に殴り込みに行くシーンが心に残る。

今は、こんな映画はとても作られない。いつごろから映画は社会へのメッセージを失って、単なる娯楽になったのだろうか。

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