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2015年9月 2日 (水)

心地よい映画『ロマンス』

タナダユキ監督の『ロマンス』を劇場で見た。この監督は、『ふがいない僕は空を見た』(2012)が抜群に良かったので、期待していた。結果としては、そこまではなかったが、『百万円と苦虫女』(08)のようなダメな女の子もので、何より見ていて気持ち良かった。

『ロマンス』という題名は、何と小田急のロマンスカーのことだった。そこで車内販売をする鉢子(大島優子)は、万引きをしようとした40代の桜庭(大倉孝二)を捕まえる。

ところが桜庭は走り出し、鉢子は追いかける。そんなきっかけで、ふたりは一日箱根で過ごすことになる。鉢子は鎌倉を歩きながら別居中のだらしない母親を思い出し、桜庭は映画プロデューサーとしての仕事の話をしながら、これまでを振り返る。

何も起こらない。それぞれのこれまでのダメな人生がだんだんわかってくるだけ。ふたりの間に「ロマンス」が生まれるかという瞬間もあるけれど、鉢子のモノローグで「何やっているんだろう、私」と来る。最初は鉢子を中心にした物語だと思っていたら、後半は桜庭の映画製作の苦い思い出もリアルに響いてくる。

相米慎二の『ラブホテル』のパロディで『ラ・ラ・ラブホテル』を作ろうとした話。会社社長に映画出資を持ち掛けて、「真木よう子の主演が決まっています」と言う話。あるいは、ETのエピソードに反応しない鉢子に「今の若者は『ET』も知らんのかあ」

桜庭を演じる大倉孝二は最初はとんでもない奴に見えるが、だんだんといい味を出してくる。後半はもう大島優子を圧倒して、中年男の悲哀をコミカルに見せてくれる。「映画を作っている時はもう止めたいと思うけど、終わるとまた作りたくなる」という言葉がいい。

最初はロマンスカーでそこから全速で走り出して、途中から桜庭の運転する車の移動となる。男女がそれぞれの追憶に浸りながら、時々現実に戻ってとんちんかんな会話をするさまを、長回しのカメラがすーっと捉える。そこに流れる心地よい空気感がたまらない。

ふたりが箱根のススキの原っぱで、「いい日旅立ち」の歌を歌うシーンがある。「ああー、日本のどこかにー、私を待っている人がいるう」。ほかにも1980年前後の歌がいくつか。桜庭は覚えているが、鉢子の記憶は母のカラオケ。そんな時代を感じさせる細部もいい。

今回の製作は東映ビデオだが、最近は東宝や松竹の映像事業部など、邦画大手の製作本体以外の部門が若手監督に自由に映画を作らせているようだ。

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» ロマンス [勝手に映画評]
AKB48の元エース、大島優子のAKB卒業後初の主演映画。小田急ロマンスカーのアテンダントを描いているので、撮影に際しては小田急が全面的に協力。60000系MSEが撮影に使われています。って言うか、ロマンスカーって乗ったこと無いんだよなぁ。乗ってみたいなぁ。 なるほど...... [続きを読む]

受信: 2015年9月 5日 (土) 10時18分

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