早川雪洲ふたたび:その(2)
ふたたび、早川雪洲のことを書く。彼が主演の『死線の勇者』The Tong Man(19)は、先日書いた『蛟龍を描く人』The Dragon Painterと同じく自身の製作で監督も同じウィリアム・ワーシングトン。だがこちらは日本の話ではなく、アメリカのチャイナタウン。
いつも殺人が起こり、たまり場ではアヘンとギャンブルばかりしている中国人街が舞台。日本ものだと日本の風俗の忠実な再現を目指す雪洲が、中国ものだと偏見たっぷりの世界を描いているのが興味深い。
サンフランシスコの暗黒社会ボー・シン・トンを支配するのは、ミン・タイ(マーク・ロビンス)。彼は麻薬業者ルイ・トイ(藤田東洋)の娘セン・チン(ヘレン・ジェローム・エディ)を狙っている。そこに現れるのが、早川雪洲演じるルック・チャンで、セン・チンは一目惚れ。早川が中国人の溜まり場に白いスーツでタバコを加えたまま現れるシーンのカッコいいこと。
彼は竹の棒を使って、セン・チンの家のベランダに現れて、彼女と愛を語る。「一緒に中国に行こう」。おもしろくないボスのミン・タイはルック・チャンを殺す指令を出す。それに反対するルイ・トイを殺し、ミン・タイはセン・チンを奪うが、ルック・チャンは逆襲する。いやはや、アクションのおもしろいこと。それにルック・チャンを助ける青年ルセロ(阿部豊)もいい。
中国の暗黒社会を描いたアクションものだが、雪洲だけが抜群にスマート。か弱い中国の乙女を演じるのは白人女性だし、悪者のボスも白人俳優。このあたりの組み合わせが、たぶんアメリカ人にも受け入れやすいというところだろう。それに早川は明らかに「東洋人男性と白人女性の邪悪な関係」というテーマで、そそる存在だった。
同じ年のグリフィスの『散り行く花』も、リリアン・ギッシュを助ける中国人役チェンはリチャード・バーセルメスだったことを思い出した。こちらはチェンは善人として丁寧に描かれているが、中国人社会への偏見は一杯だ。
残念ながら、『死線の勇者』のプリント状態は良くない。ボーナスは何と1956年の「フー・マンチュウ博士」シリーズの1本。謎の中国人が白人を脅かすという、偏見そのものの映画だった。
『蛟龍を描く人』のボーナスについていた『火の海』(The Wrath of the Gods, 14)は、桜島のそばに住む漁師たちを描く。トーマス・H・インスが製作で脚本に加わり、レジナルド・バーカー監督。桜島の怒りにより呪われた娘(青木鶴子)は、老父(早川雪洲)と暮らす。そこにアメリカ人船員トム(フランク・ボゼーギ)が流れ着き、彼女と恋をはぐくむ。怒った桜島は噴火するが、トムは彼女と海に逃げ、アメリカ船に拾われる。
アメリカ人が因習の多い日本から娘を救うという話はいかにもアメリカ人好みだが、『チート』で有名になる前の雪洲の存在感は薄く、彼の力は及ばなかったのだろう。むしろその時点では彼より有名だった妻の青木鶴子の可愛らしさを描いた映画と言えよう。
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