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2015年9月21日 (月)

旅行中の読書:『生きて帰ってきた男』

連休明けに授業が始まる。その前にベネチアに行った時に読んでいた数冊の本について記しておきたい。まずは小熊英二氏の新書『生きて帰ってきた男―ある日本兵の戦争と戦後』。この著者は『1968』上下を始めとして分厚い本で有名だ。

彼のその前に書いた新書『社会を変えるには』は、実は私には期待外れだった。今回の本は友人に勧められたが、抜群におもしろかった。新書といっても、389ページもあるが、読み出すと止まらない。

この本が個性的なのは、いくつかある。まず、1925年生まれの全く普通の人の戦前、戦中、戦後を描いていること。シベリアに抑留された人だが、その前も後も描かれている。シベリア抑留記は多いが、その後普通に戦後日本を生き抜いた話は珍しい。

そのうえ、その人物は著名な歴史社会学者、小熊英二の父である。つまり自分の父親に、社会的歴史的な視点で徹底したインタビューをし、その人生を再現している。当然ながら、そこにはある「情」のようなものがあるし、小熊英二の発想の起源を見る楽しみもある。

インタビューは小熊氏の元学生で、既にインタビュー本を出版していた林英一氏と共に行ったという。二週間に一度、毎回3時間ほど、小熊氏が質問し、林氏がパソコンでメモ書きする。それを小熊氏が加筆して、後日録音と照合する。さらに父が目を通す。

そうやってできた本には、おもしろい細部が満載だ。小熊謙二は北海道に生まれ、母方の祖父母の住む東京に送られる。祖父が高円寺に菓子屋を営んでいたが、中野に引っ越し、天ぷら屋を始める。謙二は小学校を出て、早稲田実業に進む。「周囲の優秀児童がめざす高等師範(現在の筑波大付属)や府立六中(新宿高校)などにはとうてい入れなかったからである」

早実を「繰上卒業」して、富士通信機製造に就職。「謙二自身は、軍事産業に配置されたという自覚はなかった」

「自分が戦争を支持したという自覚もないし、反対したという自覚もない。なんとなく流されていた。大戦果が上がっているわりには、だんだん形勢が悪くなっていたので、何かおかしいとは思った。しかしそれ以上に深く考えるという習慣もなかったし、そのための材料もなかった。僕たち一般人は、みんなそんなものだったと思う」

たぶんこれが普通の都会人の感覚だろう。1944年4月に徴兵検査を受けて、第二乙種。しかし11月20日に19歳になったばかりの時に召集。「近所の人たちは空襲におびえ、すでに日常の風景になった一青年の入営などにかまう者はいなかった」「その時祖父の伊七は大声で泣きくずれた。…入営の見送りにあたって家族が泣くなど、当時はありえない風景だった。祖母の小千代は、「謙、行け」と言い、伊七を自宅の中に押し込んだ」

これから入営し、シベリアで4年も過ごすことになるが、今日はここまで。

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