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2015年9月 5日 (土)

日本映画の出ないベネチア:その(2)

2日目に見たコンペの2本は、まあまあが1本に傑作が1本。オーストリアのスー・ブルックス監督の「グレースを探して」Looking for Graceは、ガス・ヴァン・サントの『エレファント』以降に増えた、ひとつのできごとをさまざまな人物の視点から見る という設定。

16歳のグレースが女友達サッフォーとバスで出かけることから始まる。そこで同世代の男子と知り合い、仲良くなる。それに嫉妬したサッフォーは去ってゆくが、ふたりは旅を続ける。ところが男はいなくなり、グレースは途方に暮れて放浪する。そこに両親の車がやってきて、一件落着のようだがというのが出だし。

そこまでが15分ほどで、そこから4人の視点で物語が語られる。最初はブルースという両親が出会う運転手。次に娘を探す両親が頼る元警官か探偵の老人トム。そして母親のドニーズと父親のダンの話が続く。後に出てくる人物ほど話が長くなる。そこで何気ない平和な家庭に隠された真実が少しずつ見えてくる。

脚本がうまいので最後まで飽きずに見られるが、心に迫ってくる強いものはない。全体はコミカルな演出で、それが最後の事実で一挙に転換する巧みさは評価できるが。例えば最近だと、『ラブストーリーズ』の連作2本で語られた男女のそれぞれの話の方がずっとおもしろかった。

調べてみたら、1952年生まれのベテラン女性監督だけれど、日本での公開作品はこれまでなさそうだ。「ジャパニーズ・ストーリー」(2003)という日本人が出てくる映画があるようだが、これも未公開。

一方、アレクサンドル・ソクーロフの「フランス好き」Francofoniaは、初めてコンペにふさわしい風格の映画が登場した感じ。ルーヴル美術館が製作に参加して、ルーヴルの全館を使って撮影されたと聞いていたので、『エルミタージュ幻想』のようなものを想像していたら、大違い。

一言で言うと、最近のゴダールの映画のよう。フランスで映画を撮影中の本人が写り、彼のロシア語のナレーションやスカイプの電話が全体を覆う。物語はドイツ占領下のパリのルーヴル美術館長とドイツ人将校の友情を追うものだが、そこにルーヴルの数多くの作品の映像を始めとして、過去の写真(例えばチェホフやトルストイの臨終の写真など)やパリを得意そうに歩くヒットラーなど過去の映像のフッテージが挟まる。あるいは今のパリをドローンで撮った映像も。

そこにソクーロフらしい官能的な音楽が流れて気持ち良くなっていると、すぐに打ち切られて別の場面に代わる。そしてソクーロフがプロデューサーらしい男とスカイプで話す聞き取りにくい声が響く。なぜかナポレオンを演じる男も出てくる。

パリというかつての世界の中心の歴史や記憶を掘り返し、思いつくままに並べながら関連付けてゆく。ほとんどゴダールに近い壮大な構想が広がってゆく。この映画はカンヌのコンペに断られたらしいが、それはベネチアにとってラッキーだったと言うべきだろう。日本の配給会社は今すぐ買いに走った方がいい。《モナリザ》を始めとしてルーヴル所蔵の絵画や彫刻もたっぷり出てくるし。

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