『バクマン。』を楽しむ
『ビリギャル』のように、あまり期待しないで劇場に行って予想以上におもしろかったのが、大根仁監督の『バクマン。』。『ビリギャル』はオーソドックスな泣かせるドラマで、こちらは劇画調で大胆な映像を駆使しているが、どちらも全く退屈しなかった。
冒頭で、集英社の『ジャンプ』の栄光の歴史を、派手なCGを使って見せてくれる。集英社のビルが何百冊の『ジャンプ』で覆われたのには笑ってしまった。そこへ現れるのは、漫画家志望の高校生2人組のサイコー(佐藤健)とシュージン(神木隆之介)。
物語は、彼らが手塚賞に応募して賞を取り、『ジャンプ』に連載が決まる様子を描く。なによりこの主人公の2人が見ていて気持ちがいい。彼らを取り巻く若い漫画家たちとして、先にデビューした高校生漫画家エイジ(染谷将太)や、同時期の手塚賞受賞者を演じる桐谷健太、新井浩文、皆川猿時たちが、出てくるだけでおかしい。
そして漫画家だったサイコーの亡くなった叔父(宮藤官九郎)、『ジャンプ』の担当編集者(山田孝之)、編集長(リリー・フランキー)たちも魅力的な大人たちとして脇を占める。編集部の会議で最後にリリー・フランキーが「あり」と言って掲載を決めるシーンなんてゾクゾクした。その分、2人の両親などは登場させず、漫画を描くことだけに集中して見せてゆく。
2人が漫画を描くシーンを、部屋の壁や床に漫画を張り巡らすようなCGで見せ、2人とエイジが『ジャンプ』でアンケート一位を狙って競争するシーンは、彼らがペンや筆を持って格闘する場面の周りを自在に動く漫画が取り巻くように表す。漫画の世界の漫画らしさを保ちながら、最新の映像で見せる巧みさに目を剝いた。
最後のエンドロールも最高に工夫されていて、ずいぶん得した気分になった。そういえば、この映画は先週金曜日の夕刊各紙では、大きく取り上げている新聞はなかったように思う。これはきちんと評価しないとまずい映画ではないか。
それにしても『ジャンプ』は、1995年のある号は653万部を刷ったという。今でも300万部を刷っているらしいからすごいものだ。映画の中で、子供から大人まで主人公の2人が描いた「この世は金と知恵」を読んでおもしろがるシーンがあるが、あんなものなのか。
そもそも漫画を読まず、『バクマン。』の原作も知らない私だが、それでもこの映画はおもしろかった。
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コメント
朝日新聞は佐藤健と神木隆之介の大きなインタビューやってますよー!
投稿: 石飛徳樹 | 2015年10月 6日 (火) 09時22分
床や壁に漫画が映っていたり漫画のコマが紙上で動くシーンは、実際にその場でプロジェクションマッピングをしながら演技をしたとニュース番組で言ってました!
投稿: 三村汐音 | 2015年10月 6日 (火) 15時41分