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2015年10月17日 (土)

『あの頃エッフェル塔の下で』のノスタルジー感覚

最近、かつての青春を懐かしむようなフランス映画が増えている気がする。ミア・ハンセン=ラヴの『エデン』で1980年代が描かれたと思ったら、今度は12月公開のアルノー・デプレシャン監督の『あの頃エッフェル塔の下で』もまた80年代の話だった。

この監督は『魂を救え!』とか『そして僕は恋をする』『エスター・カーン』など90年代の映画は大好きだったけれど、『キングス&クイーン』や『クリスマス・ストーリー』など感覚だけに頼った演出でだんだんストーリーが二の次になってきた感じがあった。

今回も出だしはそんな感じ。冒頭がどこか外国の男女の別れのシーンでいい感じだと思っていると、税関で取り調べを受ける中年の男(マチュー・アマルリック)が、自分の過去を思い出す。ナレーションと共に、少年時代の母との関係や高校生の時のソ連旅行などがどんどん語られてゆく。

音楽が流れてノスタルジックになるけれど、次々に起こるできごとが強烈でかつどんどん過ぎてゆく。全体が謎めいていて、解決されないままに次に行くのでやはりデプレッシャン式かと思っていたら、高校時代にポールがエステルと出会うあたりから、切ない感情が丁寧に語られる。

映画の原題は「私の青春の3つの思い出」で、1が「少年時代」、2が「ソビエト連邦」で3が「エステル」。たぶん後半1時間ほどが「エステル」だけれど、この部分は甘美なノスタルジーに満ちている。北フランスの田舎町で主人公のポールはエステルに心を惹かれて、必死で声をかける。エステルはまじめで本ばかり読むポールがだんだん好きになる。

ポールはパリの大学で人類学を学ぶが、エステルは田舎に残ったまま。二人は猛烈な勢いで文通を交わす。時おり、カメラは正面を向いて話す彼らを写す。ナレーションに手紙の朗読にノスタルジックな音楽でフランソワ・トリュフォーのような感じがどんどん出てくる。

ポールとエステルを演じる俳優が何とも80年代風でいい。素直で素朴でまじめで、裸になった時の体つきまでそれを体現するかのよう。パリと田舎で時たま会う二人は互いに浮気をするが、それでも離れられない。その若さゆえの激情が快い。

ポールがレヴィ=ストロースやマーガレット・ミードを読んだり、ふたりでユベール・ロベールの絵を見たりするシーンも良かった。若さゆえの知的好奇心。そして映画は終盤に再び現代へ戻る。友人との再会。

80年代後半ということもあり、何ともノスタルジー感覚がそそられる映画だった。

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コメント

昨日、本編を見て来ました。トリュフォーの思春期みたいな初々しさと大人は判ってくれないのシビアな家族が思い出されます。文化人類学者の黒人女性の老教授もいい!彼女の死去を知って青年が失神するシーンもジャン・ピエール・レオみたいで面白い。真の愛を振り返るラストの突風のシーンを見たら熱帯の地へ旅立ちたくなった。

投稿: PineWood | 2016年1月27日 (水) 10時45分

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