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2015年10月29日 (木)

30年目の東京国際映画祭:その(5)

また、メンドーサ監督の映画を見た。『汝が子宮』は2012年の作品で、こちらは『グランドマザー』ほど、どぎつくはない。同じく水のうえに建てた建物に住む人々が主人公だが、こちらはゆったりした島で『グランドマザー』のような都会の喧騒もない。

それでも映画の冒頭と終わりにリアルな出産のシーンを持ってきて、強烈なパンチを与える。物語は、助産婦とその夫は漁業で暮らしているが、子供がないので、夫に第二夫人を迎えて子供を産ませようとするもの。

イスラム教ならではの話だが、これにフィリピン特有のダンスや衣装や風習などを加えて民族色豊かに描く。しかし突然夫婦を襲う海賊船が現れたり、夫婦を大きなサメが襲いそうになったり、若い友人夫妻の結婚式に銃声が鳴り響いたりと、「突然の恐怖」が随所に現れる。

それが大波にたゆたう生活の中の出来事なので、銃声さえも何か自然の怪奇現象のような「恩寵」を感じさせてしまう。若い娘との再婚には大金が必要なので、彼らは借金をし、さらに漁船のエンジンを売って何とかお金を揃えるあたりは、『グランドマザー』と同じ。女は紙幣を一枚一枚伸ばして数え、大金をポケットに押し込んで出かける。

映画を見ながら、この夫婦に対して愛おしさが押し寄せてきた。結婚の前に彼らが抱き合いうシーンには、涙が出てしまう。最後の海のショットに、ふたたび「恩寵」を感じて映画は終わった。

自然の奥底から出てくる「恐ろしさ」を感じた直後に見たせいか、コンペの中村義洋監督『残穢(ざんえ)-住んではいけない場所』には、作り物の「恐ろしさ」しかないように思えた。

物語は、ミステリー小説を書く女性作家が、読者の女子大生から届いた手紙をきっかけに、ふたりで女子大生の住むマンションの隠された事実を解き明かすというもの。隣人や近くの住民の話がどんどん増えて、マンション建設以前の戸建てに行きつき、同業の小説家の助けも借りてその土地自体に込められた呪いにたどり着くあたりはなかなか。

ところが後半は話がそれてゆき、最後も些末なところで終わってしまったように私には思えた。普通に楽しめる娯楽作品ではあるけれど、これが日本を代表するコンペだと困ってしまう。もちろんメンドーサの後に見たことは、割り引く必要はあるが、それにしても。

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