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2015年10月16日 (金)

『森のカフェ』の不思議な魅力

傑作だと大声で言うタイプではないが、ちょっと不思議な魅力のある映画の試写を見た。12月12日公開の榎本憲男監督『森のカフェ』。映画が始まっても自主映画のようでチープだしドラマの盛り上がりもないのに、見終わるとそれなりに充実感が残った。

何だか反則技をかけられた感じといったらいいのか。まあこの程度の映画かとたかをくくって見始めたら、少しずついい感じになっていって、いつの間にか乗せられていた。

物語は、論文が書けない大学院生が、森の中を散歩していたら、「森のカフェ」を開いている美女に出会うというもの。最初はその大学院生の部屋にアンリ・ルソー展のポスターが貼ってあったり、ピカソ展の画集があったりするので、何とスノッブなと思った。

そのうえ、美しい紅葉の中の石の椅子とテーブルに頭を抱えた大学院生が座ると、美女が意味もなくニコニコして現れて、ギターを弾いて歌い出す。ああファンタジーかと思ったら、その大学院生の論文の内容が、彼本人の生き方とリンクしていることがわかり出す。

美女は実はただの怠け者の女子大生で、友人とくだらない会話を始める。ファンタジーがリアルに転じ始めるところに、大学院生の論文審査が始まる。ここで審査する教授の一人を演じる志賀廣太郎が抜群にうまくて、一挙に映画らしくなった。

「哲学は文学じゃありませんから」などと言う、彼のセリフのひとつひとつに重みがあって、終わりに「なんだか懐かしかったよ」という言葉に思わずほろりとしてしまう。同じく審査をする教授役の安藤紘平が、「清水先生がおっしゃられた通りです」と一言しか話さないのもうまかった。

考えてみたら、主人公役の菅勇毅の演技も的確で破綻がない。美女役の若井久美子も最初はどうかと思ったが、だんだん落ち着いてくる。歌もうまい。それ以上に森の撮影が圧倒的にうまくいっている。室内は俯瞰や長回しがちょっと気になるが、審査の場面のアップなど秀逸。

どこにでもあるようなファンタジーに、真面目な哲学を入れ込むという作戦にまんまと乗せられたのか。監督の榎本さんは元セゾン系の映画業界人。そういえば、プロデューサーの越川道夫さんの初監督『アレノ』というのもあるし、松竹の山本一郎さんにも未公開の初監督作品があるらしい。本当は監督になりたかった人々が、50を過ぎて本音を出したのだろうか。

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