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2015年10月22日 (木)

小品中心の「プラド美術館展」

美術については、しょせんは素人のせいか、大きな作品が好きだ。横幅が2メートルとか3メートルの油絵を見ると、得した気分になる。その意味では、1月31日まで三菱一号館美術館で開催の「プラド美術館展」はがっかりだった。

とにかくほとんど小品ばかり。20センチや30センチの作品が続く。見終わって作品リストを眺めてみたら、102点の出品作品のうち、1メートルを超すのは、ゴヤとムリーリョとジャクイントの3点のみだった。

入口の挨拶パネルに、プラド美術館は欧米の美術館では小さめで、三菱一号館美術館も小さいので、それにふさわしい小品を集めたという意味のことが書かれていたけれど、何だかこじつけのように思えた。

一番がっかりしたのはゴヤの6点を集めた小部屋で、下絵や原画が多いし、ゴヤらしいタッチやテーマが見えてこない。一番大きな《傷を負った石工》もピンと来ない。

全体としては、中世後期から15、16世紀のルネサンス、バロックから17世紀、18世紀のスペイン絵画を中心にイタリア、フランス、ネーデルランドの巨匠の作品が少しずつ並んでいる。だから、ボス、ティツィアーノ、エル・グレコ、グイド・レーニ、ベラスケス、ティントレット、ムリーリョ、プッサン、クロード・ロラン、ルカ・ジョルダーノ、ヴァトーなど私でも知っている画家たちがあるのだけど。

目玉は、作品数がフェルメール並みに少ないヒエロニムス・ボスの《愚者の石の切除》(1500-10)のようだ。最初に題名を見た時は、個人的に気になっている胆石を取る図かと思ったが、違った。「愚か者を治療するための手術」らしく、当時愚か者には頭の中に石があると考えられていたらしい。ところが頭に見えるのは、花。

解説を読んだら、実は医者はニセモノで、横にいる妻とその横の司祭は関係があり、全員で男を騙している図らしい。最近、MRIで脳を検査してもらったら、かすかな白点が3つあって「かくれ脳梗塞」と言われた私は、妙に気になった。頭から花が咲くとは、いいではないか。

そのほか、この展覧会で一番大きなムリーリョの《ロザリオの聖母》(1650-50)は166×112センチの大きさだが、聖母の深い赤や青の服とそれを取り巻く濃い黒の背景が生々しく、悲しそうな母子の顔とあいまって、見ていて飽きなかった。

たぶんゆっくり見て回れば、小さな作品もそれなりに楽しめるだろうけれど、せっかちな私はやはり大きな作品が好きだ。

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コメント

古賀さんともあろう方が、展覧会コンセプトを読み違えていらっしゃるのに驚きました。
プラド美術館は小さいどころか、大美術館です。その王権に寄り添う巨大作品の収集の歴史とは180度真逆のベクトルで作られたのがこの展覧会です。
とりわけバロック期の国民国家形成時に、政治・宗教権力と競うように巨大化していった美術をいわば逆さまに観ててみようという試みなのです。
プラドでこの展覧会のマドリード版を観た時にも、常設の大型作品とのコントラストがとても新鮮でしたし、何はともあれ小品が故に画家の手が隅々まで染み透っていることが鮮明に分かりました。
「小さきものへの愛」をもつ日本では、それに加えて別の意味ももちそうです。その意味で一号館の狭い空間はベストだったと自負しています。
先日黒柳徹子さんが来館した際には、丸々2時間を費やしたほど、小型作品を観るのには神経を集中しなければならなくて、鑑賞に疲れるのがちょっと難点です・・・。
マヌエラ・メナのカタログ・エッセイが秀逸ですので、是非一度読んでみて、できればもう一度観て下さい。
そういえば、「ヴィラ・メディチの庭園」は、あのゴダールの「気違いピエロ」の冒頭場面、ベラスケスの美しい描写そのものですよ・・・。

投稿: たかはしあきや | 2015年10月25日 (日) 00時48分

高橋さま
大変失礼しました。文章を読んで、深く反省しました。もう一度ゆっくり時間を取って見に行こうと思います。

投稿: 古賀太 | 2015年10月25日 (日) 08時44分

こんにちは。
私も『プラド美術館展』展を見てきましたので、興味を持ってブログを拝見しました。ヒエロニムス・ボスの《愚者の石の切除》は、お書きになっているように、当時愚か者には頭の中に石があると考えられていたのを描いたようですが、ボスは異端のキリスト教信者だったともいわれ、その懐疑的精神は、中世末の盲目的キリスト教的信仰から距離を置き、客観的に物事を考える知識層に共感を受けたそうです。ボスの絵は、構図、色彩、画面構成に優れ、プラド美術館で見た≪悦楽の園≫も同様のテーマを描いた大作ですが、その色彩、画面構成の美しさに魅了されました。

私は今回の『プラド美術館展』から特に印象に残った7つの作品を厳選し少し掘り下げ書いてみました。それと一緒に実際にスペインのプラド美術館に行ったとき、≪悦楽の園≫も含めて、特に感動した作品についても書いてみました。読んでいただけると嬉しいです。ご意見・ご感想などコメントをいただけると感謝いたします。

投稿: dezire | 2016年2月 3日 (水) 10時12分

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