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2015年10月 3日 (土)

『美術館を手玉にとった男』からわかること

最近、美術や美術館をテーマにしたドキュメンタリーの公開が増えた。そもそも美術には不可思議な部分がある。その内実に迫るドキュメンタリーはおおむね、おもしろい。ましてやヘンな人間が関わっていればなおさらだ。

11月21日公開のサム・カルマンとジェニファー・グラウスマンの共同監督『美術館を手玉にとった男』は、まさにそんな1本。アメリカで46の美術館に100点以上の贋作を収めた男、マーク・ランディスが主人公と聞いただけで、見たくなる。そのうえ、予告編で彼の挙動不審な感じを見たら、すぐにも見たくなった。

ところがこの男は、実は精神的な疾患があることが、映画が始まるとすぐにわかる。いわゆる総合失調症だ。彼はスーパーで画材や木枠を買い、手元にある美術全集から1点を取り出して、贋作を作り上げる。そして美術館に電話をして、紺のジャケットを着て自分で赤い車を運転して寄贈に行く。

ドキュメンタリーはその過程を追う。彼の存在が少しずつ知られ始めた頃から撮り始めたのだろう。そこに出てくるのが、シンシナティの美術館のレジストラー(作品管理係)。彼を怪しいと睨んであちこちの美術館に通報するが、逆に仕事を失ってしまい、子供を育てながらこの男の謎に迫る。

マスコミも嗅ぎ付けて、「フィナンシャル・タイムズ」に続いて、「ニューヨーク・タイムズ」なども取りあげる。FBIも動き出すが、彼はすべての贋作を寄贈していて、1ドルももらっていないので、訴えることができない。シンシナティの美術館のレジストラーの元同僚の男は、贋作画家ランディスの展覧会を思いつく。

このドキュメンタリーを見てわかることがいくつかある。まず、写真で写る何十というアメリカの美術館の建物がずいぶん立派なこと。最近私が行ったカナダやオーストラリアの美術館もそうだったが、新興国の美術館は欧州の宮殿に似せた壮大な建築を作るのだと思った。

それに比してランディスの贋作作りはずいぶん簡単。ピカソの青の時代の絵に至っては、コピー機にかけて複写した紙を画布に貼り、そこに色を塗って、傷をつけてできあがり。こんなものに美術館が騙されるというのも驚きだ。

ランディスはカメラに写ることを拒まない。むしろ自分の情熱を見せることが嬉しいようだ。彼はなぜか白黒の古いアメリカ映画を見ながら、絵を模写する。そして本物そっくりに作り上げる。見ていると彼の気持ちが純粋に見えてくるから不思議だ。

自分も贋作を作ってみたい、そんな気にさせる1本。

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