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2015年11月27日 (金)

原節子を考える

今朝の「朝日新聞」に蓮實重彦さんが、「原節子さんを悼む」という一文を寄せていた。オリヴェイラの時もそうだったが、彼はこうした文章で自分が関わった映画祭やシンポジウムの話をすることが多い。それらの多くは彼の指示で私が現場を仕切ったものなので、いつも楽しみに読む。

今回はペドロ・コスタで始まる。小津安二郎生誕百年記念シンポジウムの時に来日した時のエピソードだ。もともとヴィム・ヴェンダースがチラシを刷った後にキャンセルをしてきたので、急遽、蓮實さんの希望でペドロが加わったことを思い出す。蓮實さんは、ペドロが出たばかりの小津のDVDが欲しいというのを聞いて、即座に会場でBOXを4つ買い与えた。

なぜ蓮實さんはペドロの話を冒頭に持ってきたか。それはもちろん「この神話的な女優の名前が世界に轟いている」ことを示すためだが、それ以上にペドロ・コスタの名前や作品名を全国紙で知らせるためだろう。原節子についての文章ならば多くの人が読むとわかったゆえの「戦略」である。

それゆえに、文章は極めて平易だ。そして彼は小津のカメラマンの厚田雄春の感動的な言葉を引用するが、その後に来るのは山中貞雄の『河内山宋俊』と成瀬巳喜男の『山の音』。山中や成瀬は小津に比べたら格段に知名度が低い。この機会にその良さをもっと知らせようという「意図」が働いたに違いない。

『監督 小津安二郎』という名著を書いた蓮實さんが、原節子の死に際してあえて小津ではなくこの2人のそれも通常代表作とは言われない2本に触れることが、彼一流のはぐらかしであり、煽りである。

さて、私自身は原節子で何を思い出すかと言われると、困ってしまう。実は昨日学生と見たのは、山本嘉次郎監督の『ハワイ・マレー沖海戦』(1942)だった。原節子追悼で見たわけでもなく、もともとその予定だったのだが、この映画に出てくる22歳の原節子は本当に美しい。

演じているのは、海軍に行く青年の姉で、父親のいない田舎の大きな家で母と妹を支えながら、「銃後の守り」をする女性の典型である。それにしてはあまりにも華やかで、そもそも全員が標準語を話すし、とても田舎には見えない。原節子は『河内山宗俊』や『新しき土』では若すぎて痛々しく、戦後の映画は婚期を逸した「陰り」が見える。

戦前の一番美しい時期はプロパガンダ映画に何本も出て、20代後半の戦後は『安城家の舞踏会』(1947)を始めとした民主主義義映画で、幸福になれない美女を演じながら「永遠の処女」となる。だから昨日の「朝日」の石飛記者の「時代の要請に応える女性像を演じるのに、もう疲れたのではないか。早すぎる引退だったが、実は正しい選択だった」という文章は、しっくり来た。

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コメント

僕もすぐに蓮實さんの記事を読みました。最近の蓮實さんの文章は、ほんとうに平易になってきていますが、だからこそ、古賀先生の仰る「はぐらかし」と「煽り」がより強烈にストレートに感じられました。

投稿: 加賀谷健 | 2015年11月30日 (月) 00時56分

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