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2015年11月29日 (日)

戦前の韓国映画を見る

東京フィルメックスでピエール・エテックスを見ようと地下鉄に乗ったが、フィルムセンターのチラシを取り出して見ているうちに韓国映画特集に行くことにした。エテックスはフランスやアメリカでDVDが出ているが、戦前の韓国映画は今でないと見られないと思ったから。

見たのは『青春の十字路』(1934)、『迷夢』(36)、『君と僕』(41)。先日見た『自由夫人』(56)で女性の解放ぶりやソウルのモダンさに驚いたが、それはやはり30年代から存在したことをこの3本で確認した。

安鐘和(アン・ジョンファ)監督の『青春の十字路』は、2007年に発見された現存する最古の韓国映画。これがなかなかよくできている。田舎から京城に出てきた主人公は駅の荷物係で、ガソリンスタンドで働く女性を好きになるが、彼女の家は父が病気で貧乏だった。

妹も京城に出てきたが、兄とは会えずにカフェの女給として働く。そこに来た髭をはやし、ハンチングをかぶってタバコを吸うモダンボーイたちに誘われて、ゴルフに行く。妹は友人を介して主人公の恋人と知り合いになる。ところがモダンボーイの1人はその恋人を襲い、怒った妹を鞭で打つ。

恋人に話を聞いた主人公は、刃物を持って立ち上がる。まるで任侠映画のラストの討ち入りのようにドアを壊して入り、モダンボーイを叩きのめす。最後は妹が主人公と恋人を送り出すシーン。

田舎と都会、貧乏人と金持ちを対比させて、田舎出身の貧しい青年が最後に復讐を果たす構造は、よくできたメロドラマのよう。主人公がモダンボーイのオフィスで妹に再会する瞬間は、サイレントなのに「オッパー」と叫ぶ妹の声が聞こえてきた。手持ちカメラや鏡を巧みに使い、重要な場面のクロースアップが効いている。

梁柱南(ヤン・ジュナム)監督の『迷夢』は現存する最古のトーキー映画という。当時の日本語字幕入り。これは『自由夫人』に似て、夫から自立したい主婦の冒険を描く。デパートに行くのを反対された主婦はそれでもデパートに行って、髭をはやしたモダンボーイにナンパされて酒を飲んで帰る。

怒った夫を捨てて妻は家を出て、モダンボーイのもとに行く。レコードをかけてダンスをしたりしているが、男は実は怪しげな商売をしていて、ある時銃を使って金を盗んで逃げる。彼らは釜山行の列車に乗るが、女はそれをタクシーで追いかけて事故を起こす。轢いたのは実の娘だった。これまた、女の自立はほどほどに、という内容。

この2本には日本の占領の影はほとんど感じられないが(アサヒビールの旗くらいか)、日夏永太郎監督の『君と僕』は三宅邦子や李香蘭が韓国の俳優と出る国策映画。24分の断片なので何とも言えないが、渡し船の乗り場で李香蘭が出て来て歌うシーンがあった。

映画の間には講演会もあったし、『青春の十字路』には柳下美恵さんの演奏も付いて、これで520円とは本当に安いが、客の入りはあまり良くない。まずおもしろいし、隣りの国と日本の映画と歴史を考えるうえで、必見の上映会なのに。

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