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2015年11月21日 (土)

『消えた声が、その名を呼ぶ』を再見

2005年から3年ほど「ドイツ映画祭」をやっていたことがある。その頃注目した数人の監督の1人がファティ・アキンで、トルコ系の監督だった。彼の『愛より強く』(06)には驚いた。

その次の『そして、私たちは愛に帰る』(08)も再びドイツに住むトルコ系移民をからめた話で、彼のルーツを強く感じさせる力作だった。その後は『ソウル・キッチン』(11)のような軽い作品や『トラブゾン狂想曲』のようなドキュメンタリーで、彼らしい重厚なドラマはやめたのかと思っていた。

そんな時に来たのが、12月26日公開の『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)で、実は去年9月にベネチアのコンペで見ていた。その時はこのブログに「賞に限りなく近い1本」と書いたが、ヤング審査員特別賞という公式外の賞に終わった。

また見ようと思ったのは、これが『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』に続く「愛、死、悪に関する三部作」の最終章と知ったから。最初に見た時は、残酷な虐殺シーンや驚くばかりの展開に目を奪われたので、もう1度じっくり見たいと思った。

物語は、1915年、オスマントルコ時代のトルコで、アルメニアの鍛冶職人ナザレットが妻や双子の娘と離され、連行されるもの。喉を切られて殺されかけたナザレッとは娘たちが生きていると偶然に聞いて、探す旅に出る。レバノン、キューバ、フロリダ、ノースダコタと旅は続く。

今回はその旅の壮大さはわかっていたので、むしろ父親の執念の根拠が気になった。それはときおり響く「愛するのはあなた」と歌う妻の声であり、レべノンノ孤児院でもらった娘たちの写真であり、世界各地に住むアルメニア人たちの同胞への連帯であり、キリスト教への信仰だった。

ナザレットは絶望的な日々のなかで、ぼろぼろになりながらも、それらを頼りに何とか生きのびる。今回はドイツ、フランス、イタリア、ロシア、ポーランド、トルコの合作で、ロケもドイツ、キューバ、カナダ、ヨルダン、マルタと5か国。三部作のこれまでと違ってお金がかかっている分、この監督特有のパーソナルなリアル感は遠のいている。

もともとドイツに住むアキンにとって、オスマントルコのアルメニア人虐殺は遠い問題のはず。それを誰にもわかる普遍的なドラマとして構築し、137分間飽きさせない映画に仕上げた力量は評価されるべきだろう。ファティ・アキンの監督の新たな時代が始まった気もするが、個人的にはドイツに留まって欲しいと思う。

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