« モレッティの『母よ、』に涙する | トップページ | 『友だちのパパが好き』の現代性 »

2015年12月24日 (木)

2本のドキュメンタリーが描く現代

学生企画の「ニッポン・マイノリティ映画祭」で見た2本のドキュメンタリーに深く心を動かされた。1本は松永大司監督の『ピュ~ぴる』(2011)で、もう1本は森達也監督の『A』(1998)。12年の間があるが、どちらも現代に生きる孤独な人物を描いている。

『ピュ~ぴる』は今年『トイレのピエタ』で注目された松永監督のデビュー作。性同一性障害を持つ男性が、コスチュームやインスタレーションの創作を通じて自分を見い出してゆく過程を描く。

見ていて心地よいのは、一般には変人と言われていても、両親や兄などから暖かく見守られていることだ。父親も「自分で稼げるようになって欲しい」と言いながらも、息子の生き方を否定しない。そして、何より撮影をしている監督との間に絶対的な信頼関係があることがヒシヒシと伝わってくる。

そして8年間を通じて、ピュー~ぴるが少しずつ自分の表現を完成させてゆくことが胸を打つ。彼の体自体も彼女へと変わってゆく。その到着点として2005年の横浜トリエンナーレでのインスタレーションとパフィーマンスがあって、父親も観客の一人として見守っているのを見た時、涙が抑えられなかった。

他人の目を恐れずに自分の生き方を追求する人物を描くという点で、松永監督の視点は今年の傑作『トイレのピエタ』にそのまま繋がっている。


『A』は、オウム真理教の一連の事件後の信者たちを広報副部長の荒木浩を中心に描いたもの。彼らは警察やマスコミや住民からまるで悪魔のような扱いを受ける。森監督の回すカメラだけが、それらをすり抜けるように、教団の内部にどんどん入ってゆく。

カメラが写すのは、むしろオウム真理教がいいかげんだったことを示すようなものが多いけれど、それでも信者たちは悪者には見えない。心の中の葛藤を抱えながら、自分に忠実に生きているように見える。とりわけ28歳の荒木浩は極めてまっとうで、その笑顔はさわやかなくらい。

彼は母と電話で話した内容を語ったり、遠くまで祖母に会いに行ったりする。そしてキスも性交も経験がないことをさらりと言う。そこには確実にカメラへの信頼がある。

それにしても、信者を無理やり公務執行妨害で逮捕する公安警察のやり口はひどい。こうして映像で撮ったことが釈放にもつながったし、それ以上に観客が実態を見ることができる。

ドキュメンタリーというのは、興味深い対象を見つけて、十分な信頼関係を築くことができたら半分は成功だと思わせる2本だった。

|

« モレッティの『母よ、』に涙する | トップページ | 『友だちのパパが好き』の現代性 »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/62928483

この記事へのトラックバック一覧です: 2本のドキュメンタリーが描く現代:

« モレッティの『母よ、』に涙する | トップページ | 『友だちのパパが好き』の現代性 »