『建築の大転換』に考える
友人に勧められて読んでおもしろかったのが、伊東豊雄・中沢新一著『建築の大転換』。中沢新一は、私が学生の頃に浅田彰と共にインテリのスターだった。いわゆる「ニューアカ」というやつで、私より少し上の30代前後が「世界の知」を語る感じだった。
その当時は浅田は明快で剃刀のようなキレモノで、何でも解説してくれるが、中沢は何かというとチベット密教の方に持っていくので、神秘主義でゴマカシに見えた。ところが今では浅田は単なる解説屋さんで、中沢の方が思想家として大成した感じがする。
この本がまずおもしろいのは、新国立競技場問題を題材にして、ザハ・ハディッド案がいかに環境を無視したものかを中沢と建築家の伊東豊雄が述べている点にある。つまり現在進行形のアクチュアルな問題。そのうえ、伊東はザハ案が選ばれる時に応募して落ちており、さらに現在再コンペに提案している日本人2組のうち1組の中心だから。
中沢は「文庫版はじめに」で述べる。
「デザインコンペを制したザハ・ハディッド氏の「脱構築主義」的な競技場案は、その容姿においても、ビッグネスの極致というべきサイズにおいても、予想される建設費用についても、ぼくたちの思想が真っ向から立ち向かうべき「敵」であった。
この本には、伊東が提案して採用されなった建築案が載っている。ザハ案より確かにだいぶ小さいが、カッコ良さでは劣る。これが本当に中沢が書くような自然に近いものなのかは私にはよくわからないけど。
もうひとつおもしろいのは、中沢がある種の文明史観を述べている点。彼は人間とエネルギーの歴史をこうまとめる。
1.火の獲得
2.家の形成
3.金属の発明と風力や水力の利用=国家
4.火薬の発明
5.石炭の発明=産業革命と近代資本主義
6.石油の利用=自動車社会
7.原子力エネルギー
「人間は、原子力エネルギーの利用により、史上初めて生体圏の外から、太陽圏に属するエネルギーを直接自分の内部にもちこんで産業を動かすようになったのです」
彼は8番目のエネルギー革命として、太陽光を中心とした自然エネルギーに戻るべきだという。それが資本主義の交換ではなく、「太陽によるエネルギーの贈与」というから、また神秘主義かと思わないこともないが。
いずれにしても中沢は今後の建築はこの原理に基づいて作られるべきだと主張し、伊東も同意する。それでは伊東豊雄は再コンペでどんな案を出すのか、対する建築家の隈健吾はどうなのか、興味は尽きない。
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