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2015年12月13日 (日)

『ハッピーアワー』を初日に見る

映画を封切り初日に見ることはまずない。劇場や配給会社など関係者が多いので、挨拶などめんどうくさい。無料にしてもらったりしたら、ほかのお客さんの手前、恥ずかしいし。それでも濱口竜介監督の『ハッピーアワー』の初日に行ったのは、早く見たかったから。

まず、8月のロカルノで主演の女性4人が女優賞を取った時、複数の新聞記者から「傑作」という話を聞いていた。ロカルノ前に試写をやったらしい。それから最近だと今年の映画の「回顧」で日経新聞の古賀重樹記者も読売新聞の恩田泰子記者も大きく扱っていた。まだ公開前なのに。一昨日の金曜夕刊各紙もこの映画ばかり。

私もWEBRONZAで今年の映画と美術の回顧を書くので、早く見たいと思ったが、初日しか日程があかなかった。なんせ、5時間17分の3部構成である。

映画は想像通り素晴らしかった。私の中では、一挙に今年の邦画ベスト1になった。何がそんなに良かったかというと、4人の30代後半の女性たちの生と性が、息苦しくなるほど映像の瞬間瞬間に刻み込まれていたから。見ていると何が出てくるかわからない、こんな恐い映画はフランスのジャン・ユスターシュかアメリカのジョン・カサヴェテスくらいではないか。

あかりはバツイチの看護師で、何でも本音で言うタイプ。桜子は公務員の妻だが、夫は忙しく中学生の息子は恋に夢中。アーツセンター勤務の芙美は、編集者の夫と自由に暮らす。生命物理学者の夫を持つ純は、実は離婚協議中。

一見何不自由ない4人だが、何かありそう。芙美が関わる変わったワークショップに4人が参加した後の打ち上げで、純が突然離婚の話をする。それから、4人はだんだん本音で生き始めて、生活がみるみる変わってゆく。

こんなこと、実はあるあると思いながらあっという間に1部が終わった。本当に彼女たちの実際の生活を覗いている感じだが、実は丹念に練られた脚本があるのだろう。それを各自が自分のなかでしっかり受け止めているに違いない。そんなことを考えていると、2部が終わり、3部が終わった。

4人全員が修羅場に堕ちて行く展開は、本当に息もつけなかった。2回の休憩をはさんで、午後1時から7時まで。演じたのは濱口監督が神戸でやったワークショップ出身の素人ばかりという。女性4人を始めとする登場人物たちが、もう他人とは思えない。彼らの世界に生きている気分になった自分がいた。この感覚は、4時間38分の『ヘヴンズストーリー』(2010)以来かもしれない。

当日券は3部で3900円とふざけているくらい高いけれど、その価値は十分にある。

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コメント

「ハッピーアワー」は、濱口監督が東京芸大の修了制作で作られた「PASSION」の延長線上にあるように思います。「PASSION」も傑作です。ご覧になっていない方はぜひ!!

投稿: 石飛徳樹 | 2015年12月13日 (日) 11時53分

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