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2016年1月 8日 (金)

年末年始のDVD:『五人の斥候兵』と『風の中の子供』

実は私の大学の授業は今日からで、昨日までは休みだった。といっても卒論の草稿を読んだり、自宅近くの喫茶店で指導をしたりと意外に忙しい。授業の準備もあるが、それで再見したのは、『五人の斥候兵』(日活、田坂具隆監督)と『風の中の子供』(松竹、清水宏監督)。

共に1938年のベネチア国際映画祭のコンペに出た。それまでも3本の邦画をドイツで再編集した『ニッポン』が1934年に、『荒城の月』が1937年に出ているが、日本で映画評論家を中心とした委員会を作り、日本代表として送ったのはこの2本が最初のようだ。

結果として『五人の斥候兵』は、民衆文化大臣賞を取っている。今見ても2本とも秀作だが、いかにも地味で、いわゆる西洋的な意味でのドラマがない。

『五人の斥候兵』は、5人が偵察隊として敵陣地に入り、戻ってくるだけの話。そのうえ、5人が出発するまでに約30分もある。その前は敬礼したり、すいかを食べたり、タバコを吸ったりというエピソードが続く。あるいは腕を負傷した兵士がいやいやながら救急トラックで去ってゆく。

5人が出発してからはかなり緊迫した画面が続く。ここで大事なのは、敵の中国人が見えないことだろう。敵の人影や銃声に怯えながら、5人は逃げ回る。一か所、敵の塹壕から逃げる日本兵が見えるショットもあって、相当のサスペンスを作っている。

3時間以内に戻るという約束だったが、だいぶ遅れて、1人、2人と戻ってくる。ところが4人しか戻ってこない。みんなは心配するが、だいぶたってふらふらの兵士が帰ってくる。その間、突撃の指令が出て、一隊は進んでゆく。

そもそも偵察の目的が曖昧だし、その後の攻撃との関係も明らかでない。5人が無事に帰ってきたという小さなエピソードでしかないが、その日常をクロースアップを巧みに使って丹念に写す。兵士たちが逃げ回るシーンの移動撮影もうまい。

これが欧米のプロパガンダ映画ならば敵を鬼や狂人として表象するが、この映画で敵は写らない。伝わってくるのは、むしろ「兵隊はつらいよ」的な厭戦的ムードだろう。

この映画がベネチアでどう受け取られたかについては、調べてみたらその年の『キネマ旬報』10月21日号で岩崎昶と内田岐三雄がドイツ語と仏語の雑誌を翻訳して載せていた。以下はフランスの雑誌。

「軍国主義宣伝の映画であるのだが、この映画は併せて我々に、それが東洋のマスクを持とうと西洋のマスクを持とうと、小さな喜びにも大きな悲しみにも常に敏感であるところの永遠の人間性を表示している。…だがこの映画は実にすばらしい力と、簡潔さを以て作られている。人は日本人の魂が、その上に課せられたプルシャ的群立主義から脱することを感じる」

既にドイツと日本が近づいてフランスを脅かしていた当時の政情を考えると、何とも興味深い。『風の中の子供』についてはすでにここで自分で論じていたので、今日はおしまい。

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