年末年始のDVD:『東京ジョー』と『アナタハン』
この数年、年末年始は極力出歩かない。本を読み、DVDを見る。親戚や友人と酒を飲む。ある種の充電といった感じ。年末に見たのは、スチュワート・ヘイスラー監督の『東京ジョー』(1949)とジョセフ・V・スタンバーグ監督の『アナタハン』(1953)。
敗戦後数年たつと、何本ものアメリカ映画が日本で撮影された。一番の理由はアメリカ映画が日本で公開されて儲けたお金が、日本政府の外貨準備高不足でドルで送金できなかったためという。つまり溜まった円を使うには日本で撮影するのが好都合だった。
さらに、6年間も米軍が駐留したために、アメリカ人にとって日本はエキゾチズムの対象となった。とりわけカラーとシネスコが普及すると、一種の観光映画のようなものが数多く作られた。「国辱映画」として知られる『東京暗黒街 竹の家』(1955)などはその典型だろう。
ところがここで挙げる2本は、観光映画が流行る前の作品で、モノクロでスタンダード。『東京ジョー』のスチュワート・ヘイスラーという監督はあまり知られていないが、これは何といってもハンフリー・ボガートの映画である。
ボガート演じるジョーが、かつて銀座で経営していたバー「東京ジョー」を戦後再訪するところから、映画は始まる。ところが「東京ジョー」は人手に渡り、かつての妻のトリーナは占領軍将校と再婚していた。木村男爵(早川雪洲)からは、トリーナがかつて日本に協力していた過去(東京ローズの役)をばらすと脅される。
ジョーは木村男爵の言うままに、進駐軍に冷凍蛙の輸送と称してソウルから日本の戦犯3名を連れてくる。ボガートがまるでフィルムノワールのような調子で突き進み、相手を締め上げる感じがいい。占領下なのに、主人公のジョーがアメリカの裏をかくという設定。ましてや戦犯の輸送とは何とも大胆。
日本人はおよそ妙ちきりんな演技しかしないが、早川雪洲だけが別格でボガートと英語で対等に渡り合う。この映画を引き受ける際にボガートは憧れの早川雪洲に出て欲しいと世界中を探させて、パリのカフェで絵描きをしていた早川を連れてきたというが、どの程度に本当なのだろうか。確かに早川の存在感というか不敵さ加減は抜群。
この映画には1948年の銀座がきっちり写っている。その年の夏に公開された清水宏監督の『蜂の巣の子供たち』のポスターがあったのにも驚いた。
『アナタハン』は、とにかく『嘆きの天使』『モロッコ』などの巨匠スタンバーグが日本で撮った映画として知られる。フランスなどでは普通に評判がいいが、日本では当時「国辱映画」とされる一方で、映画ファンには長らくカルト的人気がある。
実は初めて見たが、どう見ても失敗作だろう。全編にナレーションが入り(スタンバーグ本人という)、何となく「上から目線」で話が進む。あまり知られていないが、この映画は1953年のベネチア国際映画祭に溝口健二の『雨月物語』と共にコンペに出ている。この映画については後日また触れたい。
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