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2016年1月21日 (木)

ロン・ハワードの安定感

ロン・ハワード監督の『白鯨との闘い』を劇場で見た。この監督は学生時代に見た『ラブINニューヨーク』(1982)、『コクーン』(85)の昔から実に手堅い。『天使と悪魔』(2009)はちょっと手を抜いている感じもしたがそれでも見せてくれるし、前作の『ラッシュ/プライドと友情』(13)は自動車レースを迫力満点に描いていた。

今回もその意味では、巨大な白鯨との戦いの場面を軸に、十分に迫力のある映画だった。2時間2分、最初から最後まで全く退屈しない。

映画は、ハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』の基となった1820年のエセックス号遭難事件を描く。それから30年後に、若き小説家メルヴィル(ベン・ウィショー)が生き残りの船員を訪ねるという出だしがうまい。当時14歳だった見習い船員の視点から、事件の真相が少しずつ明らかになる。

もちろん一番の見どころは巨大な白鯨で、50メートルはあろうかという鯨が泳ぐさまに息を飲む。これがまるで敵意があるかのように、捕鯨船に迫ってくる。白鯨というから真っ白かと思っていたら、白と灰色のまだらで何とも不気味。小さな目が怖い。

この映画がうまいのは、エセックス号の乗組員たちの群像を巧みに描いていることだ。実力があっても出自が貧しいために船長になれないチェイス一等航海士(クリス・ヘムズワース)と、金持ちの息子のポラード船長(ベンジャミン・ウォーカー)の確執がその中核にある。そのまわりに、アル中のチェイスの友人ジョイ(キリアン・マーフィーが何ともいい)、ポラードの従弟、そして見習いのニカーソン。

この映画の山場は、実は捕鯨船が大破して遭難した後にある。小さなボート2つで何十日も漂流を続けるが、そこでは何と、第二次世界大戦の日本兵を描いた去年の映画『野火』のようなことが起こっていた。老いた生き残り船員は、それまで妻にも語っていなかった真実を、熱心なメルヴィルを前に、酒を飲みながらついに語りだす。

人間と鯨のアドベンチャーものかと思ったら巧みな群像劇で、それが人間存在の深淵を見せる悲劇に転換する。本当にてんこ盛りで、見終わると頭がくらくらしてくるが、この難しいドラマを巧みに語るこの監督の安定感は見事なものだと思う。

クリス・ヘムズワースが渋くて実にいい演技を見せてくれるけれど、個人的には感情移入できるロン・ハワード監督の前作の『ラッシュ』の方が好きだ。

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