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2016年1月11日 (月)

スピルバーグは正統なアメリカ映画を引き継ぐ

スティーヴン・スピルバーグ監督の『ブリッジ・オブ・スパイ』を封切り早々に見た。彼の映画は中学生の時に同級生10名ほどで『ジョーズ』(1975)を見に行って以来、かなり見ている。どの映画も、楽しませながらも見応えがある。今回見ながら、やはりスピルバーグは正統なアメリカ映画を引き継いでいると思った。

それは一言で言うと、自分の信念のために社会と戦って、最後に勝つというもの。この映画で言うと、トム・ハンクス演じるドノヴァン弁護士は、1957年にソ連のスパイ、アドルフ・アベルを弁護して死刑を免れさせ、さらに数年後にソ連でスパイ容疑で逮捕された若い兵士とアベルの交換劇に駆り出されて成功させる。

ドノヴァンの信念とは、「誰であろうと公正な裁判を受ける権利がある」「憲法に忠実であることが、アメリカ人がアメリカ人たる根源である」「規則(ルールブック)を守ることこそアメリカ人の証である」などなど。

こう書くと、アメリカ中心のように見えてきていやになるけれど、映画を見ているとドノヴァンを応援したくなる。スパイの弁護士というだけで電車に乗っても非難され、家族からも嫌がられる。挙句の果ては自宅に投石まで。

前半はひたすら我慢でようやく懲役30年を勝ち取るが、本当のドラマは後半。極寒の東ベルリンで、ソ連のKCIAや東独の警察を相手に、ひとつひとつ問題を解決してゆく。

まず、アドルフ・アベルを演じるマーク・ライアンスがいい。冒頭の鏡を使って自画像を描くシーンから抜群で、感情を押さえながらもドノヴァンと友情を築いてゆく。CIAがソ連に送り込む飛行士たちの場面も迫力がある。「つかまったら死ね」と硬貨に隠した青酸カリを渡すのだから、戦前の日本軍と変わらない。

そして荒涼たる東ドイツのセットがすごい。特に、1961年にベルリンの壁が作られている場面を見せてくれたのがよかった。そこに巻き込まれるアメリカ人留学生の描写も含めて、こうやって国を分断してゆくのかと思った。今や繁華街となった、フリードリッヒ・シュトラッセやチェックポイント・チャーリーの当時の姿も印象的だった。

ドイツ語もロシア語も英語に直さずそのまま話し、字幕もつかない。言葉がわからない中で交渉するドノヴァンの気持ちになってゆく。

魔女狩りのようにドノヴァンを苛めるアメリカ社会や、「憲法を守る」というドノヴァンの言葉が、妙に現代日本の状況を思わせた。

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