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2016年1月12日 (火)

人はなぜ壁を作るのか

『ブリッジ・オブ・スパイ』で一番おもしろかったのは、ベルリンの壁を作っている場面だったかもしれない。1961年、アメリカ人学生が作られつつある壁のまだできていない場所を見つけて、西側からドイツ人の恋人のいる東側へ自転車で移動する。恋人を連れて西に行こうとすると、壁は完成していて渡れなくなってしまい、警察に捕まる。

その後、トム・ハンクス演じる主人公のドノヴァンは、列車の中から壁を乗り越えようとして機関銃で撃たれる若者たちを見てショックを受ける。ほかの乗客たちも窓に張り付いて見ており、どよめきの声が聞こえる。

人はなぜ壁を作るのか。比喩ではなくて、突然大地を2分して壁を作り、通行を不可能にしてしまう理由は何か。これまでは、それは冷戦の産物だった。つまりベルリンの壁であり、韓国と北朝鮮の間の38度線の壁で、壁の双方をアメリカとソ連が支援していた。

1989年にベルリンの壁はなくなった。朝鮮半島にはまだあるが、これは時間の問題だろう。現に川を越えて中国に渡る北朝鮮の人々が後を絶たない。ところが「壁」は今や世界中で増えているという記事を、2年ほど前にフランスの雑誌「ヌーヴェルオプセルヴァトゥール」で読んだことを思い出した。

切り抜きが出てきたので再読すると、テロリストを入れない、移民や難民の流入を防ぐ、麻薬の流通を阻む、宗教的対立など理由はさまざまで、壁は世界中で毎年増えつつある。

世界地図に壁のある地域が赤で塗られているが、その数は20ほど。大きなものは、インドとパキスタン間やサウジアラビアとイエメン間、モロッコと西サハラ間、米国とメキシコ間で2000キロほどの長さ。その半分ほどが、インドとミャンマー間、南アフリカとボツワナとジンバブエ間、インドとバングラデッシュ間、ウズベキスタンとカザフスタン間などなど。

見ていると気が滅入ってくる。さらにイラクとサウジアラビア間やトルコとシリア間、米国とカナダ間では現在建設中のようだ。記事にはあちこちの壁の写真がある。セメントの壁もあれば、砂の壁もあり、鉄条網だけもある。

よく考えたら、私自身はこうした壁を見たことがなかった。日本のように海で囲まれた国に住んでいると、多くの人がそうかもしれない。しかし、世界では壁は増えている。少なくともこれは知っておく必要がある。

個人的にはいつも「心の壁」を考える。社会との、学生との、友人との、家族との。しかしそれは何と幸福なことだろうかと思い直した。

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コメント

壁、なくなって欲しいですね。いろいろ。
世界全体の幸福を考えている人も多いし、そうした活動もちゃんとあるのに。
壁の両側の利害を求めた戦い、戦争、終わらないですね。
ゲーテッド・コミュニティー(gated comunity)というのがあるらみたい。自分たちの安全などのために、周りから隔離する団地みたいなものらしい。
中世に戻っているのでしょうか?いろいろな差別が復権しているような気がします。

投稿: jun | 2016年1月12日 (火) 22時42分

junさん、フランスの記事にもゲーティッド・コミュニティについて書かれていたのを触れるのを忘れていました!

投稿: 古賀太 | 2016年1月13日 (水) 07時35分

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