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2016年2月21日 (日)

『最高の花婿』に見えるもの

3月19日公開のフィリップ・ドゥ・ショードロン監督の『最高の花婿』を見た。久しぶりに見たフランスの娯楽映画だったが、2014年のフランスで興行収入1位、1300万人が見たという。日本の興収に当てはめると、170億円ほどになるから、フランスの人口を考えたらすごい。

映画というのは、佐藤忠男氏がよく言うように自国民に対しては「うぬぼれ鏡」だけど、外国や外国人に対しては、偏見をそのまま写す。ましてや娯楽作品の場合は、それが素直に現れる。だからこの映画を「フランスの大衆が見たい物語」として考えると、実に興味深い。

映画は古城めぐりで知られるロワール地方のシノン市が舞台。いかにも保守的な地方というのがキモだろう。そこで3つの結婚式が「1年後」と立て続けに写る。ヴェルヌイユ家の長女はユダヤ人、次女はアラブ人(アルジェリア系)、三女は中国人と結婚し、両親、特に父親は浮かぬ顔をしている。

両親が住むのは大きな庭の中に立つ一軒家。ド・ゴールを信奉する父親が読むのは『フィガロ』紙で、母は『フィガロ・マダム』誌。すべてがフランスの地方のブルジョアそのもの。

両親は、頼みの綱の四女の相手がキリスト教徒と聞いて大喜びするが、実際に連れてきたのは黒人だったというのが発端。たぶんこの順番が大事だ。フランスに一番抵抗感がないのはユダヤ人。というか、フランス社会の政治、経済、芸術の要にユダヤ人がいる。しかしユダヤ人でない多くのフランス人は、秘かに反感を抱いている。

次に抵抗がないのはアラブ人。アルジェリア、チュニジア、モロッコは植民地だったので、旧入植者は多いし、それらの国からの移民も多い。それでも次女の婿は「モロッコ人は許せない」と言ったり、複雑なところを見せる。

そして次が中国人。3人の婿が揃って議論すると「点取り虫」などと非難される。中国人の前ではユダヤ人とアラブ人が結束するのも興味深い。3人が庭にいると近所の隣人は「あれは庭師たちですか」と言う。つまり、外国人が庭でたむろしていたら庭師と思うのが自然なのだろう。あるいは教会に3人を連れてゆくと、父親は友人に「ベネトン家族」と軽口を叩かれる。世界中の人種を広告に使っているベネトンということだろう。

そして一番困るのが黒人。この映画ではコート・デュボワール出身だが、父親は誇り高く、フランスが大嫌いだからおかしい。父親同士がスカイプで会話をする時に、アフリカの父は「フランス料理は量が少ないから、披露宴のメインはアフリカ料理で」というとフランスの父は「カスレをご存じないのでは」と言う。カスレとは豚肉やソーセージや豆を煮込んだ重い南仏料理で、フランスのいわば「ソウルフード」。

中国人は「ジャッキー・チェン」や「ブルース・リー」と言われ、アラブ人は「アラファト」、ユダヤ人は「シャイロック」。アフリカの父親は息子の相手を「お前のカトリーヌ・ドヌーヴは」と言う。黒人の父はかつて「黒人の頭」と呼ばれたチョコレート菓子をケーキ屋で注文して騒ぎを起こす。あるいは彼はフランス人の父を「コミュニストめ」と罵る。

最後は四女の結婚式で父親同士が和解し、もちろんハッピーエンド。なかなか泣けるエンディングも用意されている。私には、セリフの一つ一つ(一部は字幕に出ない)がフランスの大衆のステレオタイプな世界観を示しているように見えて、十分に楽しんだ。

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