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2016年2月 1日 (月)

『俳優 亀岡拓次』の酩酊感

横浜聡子監督の『俳優 亀岡拓次』を劇場で見て、この監督ならではの酩酊感を味わった。彼女は最初の『ジャーマン+雨』から、不思議な時空で炸裂するユーモアが抜群だった。松山ケンイチを主役にした『ウルトラミラクルラブストーリー』(2009)では、全編津軽弁で農薬に侵された青年の松山の恋を夢幻的に描いた。

さて今回はと思ったら、出だしはずいぶん普通。味のある脇役俳優・亀岡拓次(安田顕)が出てきて、いろいろな映画の現場に行く。そして夜は現場の近くの飲み屋で一人で飲む。安曇野では居酒屋の女将(麻生久美子)に惹かれてゆく。

その淡々とした進行に、『深夜食堂』のようなものかと思ったが、やはり大違いだった。亀岡が出る映画は妙に凝っていて、監督を新井浩文、染谷将太、大森立嗣、山崎努などが演じる。どの現場も、見ていて吹き出したくなるほどおかしい。あるいは三田佳子演じる大女優の舞台に出たり、スペインの監督の映画に出たり。

それぞれの現場と飲み屋がひとつながりになっていて、見ているとだんだん現実か映画かあるいは酔った状態の幻想か、はたまたその後の夢かわからなくなる。映画館に入ったはずが、三田佳子との舞台の本番だったり。

そのくせ、カラオケで素人女性がちあきなおみの『喝采』を歌うのを全編映したり、客の男性と亀岡のデュエットをえんえん見せたり。あるいは麻生久美子がおいしそうに日本酒を飲むのをゆっくりと映したり。見ていてテンポが狂ってくる。

時代劇を撮るクロサワのような感じの山崎努の雰囲気も楽しい。あるいは地方のホテルで監督の大森立嗣が撮るギャングものはどこかゴダールの映画みたいで、実際に「ミシェル・ポワカール」や「ラズロ・コヴァックス」という言葉も出てくる。劇中の映画の1本1本を、横浜監督が趣向を凝らしていて楽しんでいる感じ。そもそも題名が『鉛のあじわい』とか『下足の泥』とか『粉ふき門司』だし。

主演の安田顕が、「映画でよく見るけど名前を思い出せない俳優」を体現している。その諦めたような淡々とした生き方も含めて。見ていると、彼の諦念や酩酊がだんだん移ってくる。久しぶりのこの監督の長編だったが、「あいかわらずやってくれたなあ」と思った。

公開2日目のせいか劇場は立ち見も出るほど盛況だったが、若い女性が上映後に「売れない俳優が酔っぱらってるだけじゃん」と連れの男性に怒っていたのがおかしかった。

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