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2016年2月 6日 (土)

『サウルの息子』の衝撃

ハンガリー映画『サウルの息子』を劇場で見た。どの新聞の映画評も絶賛しているし、そもそも新人監督なのにカンヌでグランプリを受賞している。アウシュヴィッツの映画はもう見飽きた気もしたが、とりあえず見ることにした。

これが、これまでの「ナチ収容所もの」とは一線を画す映画だった。まず主人公サウルは「ゾンダーコマンド」と呼ばれる、ユダヤ人をガス室に送り込んで殺す処理係であり、ナチス側でも処刑される側でもない。収容者から選ばれて虐殺の手助けをするユダヤ人という奇妙な立場にいる。

サウルは言われるがままに人々をだまして裸にし、ガス室に追いやる。ユダヤ人たちが脱いだ衣服から金目のものを取り出していると、ドアの向こうで阿鼻叫喚の叫び声が聞こえる。それから死体を移動させて床の掃除。死体は解剖して焼き、その灰を海に捨てにゆく。それが終わるころには新しい一団がたどり着く。その繰り返し。

サウルは同胞の悲惨な姿をあえて見ない。だから悲惨な状況自体はあまり写らないが、ほぼワンシーンワンカットでカメラはサウルを追っていくので、あちこちに裸の死体や体の部分が写り込む。ユダヤ人たちの叫びと、作業をするゾンダーコマンドたちの立てる騒音が暗い空間に鳴り響く。

そんななかでガス室で生き残った自分の息子を見つけ出し、ドラマが始まる。軍医は容赦なく殺すが、サウルはラビを探して正式な埋葬をしようと企てる。最初は仲間たちも無視するが、だんだん協力を始める。同時にナチスへの反乱の計画も進んでゆく。

悪夢とはこのことだろう。目の前で地獄が繰り広げられる中を、息子のためと信じて奔走する父親。遺体を袋に入れてあちこちに持ち歩く。途中から見ている自分もサウルと共に収容所を駆け巡っている感覚になる。だんだんサウルの呼吸が自分のものになってきた頃に、映画はシュールな終わりを迎える。

見終わっても、自分に収容所の死体の匂いがついて離れない気がした。監督は1977年生まれのネメシュ・ラスロー。パンフでタル・ベーラの助監督をしたと読んで、その非凡な撮り方を納得した。まるで死神のような顔をした、主演のルーリグ・ゲーザの目つきも忘れられない。

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