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2016年2月15日 (月)

がっかりした『スティーブ・ジョブズ』

『スティーブ・ジョブズ』は予告編のカッコよさに期待して劇場に見に行ったが、がっかりした。映画として見たら、才人監督ダニー・ボイルらしいオリジナルな切り口と鮮やかな映像処理は際立っている。でもこれは、私が見たかったものではない。

私はジョブズが若い頃にガレージでパソコンを組み立てている姿を見たかった。マックのような、汎用性のない、オリジナルでかつ美的に尖がっているモノが、どうやってできたのか、その過程を映像にして欲しかった。あるいは彼がいったんアップル社を追われながら復活する経緯が見たかった。

ところが描かれているのは、3つのド派手な記者会見直前の舞台裏の葛藤ばかり。同僚や部下と揉めるのはまだいいが、元恋人や娘が出てくる。後半になって1998年にiMacを立ち上げる記者会見あたりからようやくおもしろくなったと思ったら、最後は家族の物語へ収斂して、いかにも月並みなアメリカ映画みたい。

それでも、ジョブズを演じるマイケル・ファスビンダーを始めとして、その秘書的なマーケッティング担当役のケイト・ウィンスレット、あるいはペプシコーラのCEOからアップル社にやってきた経営者役のジェフ・ダニエルズなど、議論しながら罵倒し、そして仲直りする俳優たちは素晴らしい。ところどころに過去の映像がフラッシュバックで入るのもうまい。

でも私には物足りなかった。頭の悪い元恋人との喧嘩なんて見たくなかった。大きくなった娘との和解もつまらない。考えてみたら、3つの場面しか出てこないので、舞台を見ているようだった。これは芝居にしたらおもしろいのでは、とも思った。

なぜそんなに不満だったのか考えてみたら、描かれている時代が自分がこれまで生きてきた年月だったことに気がついた。映画の最初の記者会見は、1984年。私がパリに留学した年で、東大の大学院生が数行を記憶できるシャープのタイプライターを持っていたのを見て驚いた。帰国後私もオリベッティの10行記憶するタイプライターを買った。

次の記者会見は1988年。私は働き始めて2年目で、パソコンの出始めの頃。タイプ室の女性だけが大きなワープロと5インチの大きなフロッピーディスクを使っていた。あるいは初めてファックスを使ってその便利さに目をむいた。それからあっという間にワープロが普及した。

3つ目の記者会見は1998年。ワープロに代わってパソコンが普及し始めていた。私が初めてパソコンを買ったのは95年で、MacのPerformaは便器くらい大きく重かった。それをタクシーで会社に持ち込んで仕事をしていた。2年くらいで売って、デルの小さなウィンドウズコンピューターを買ったのが98年頃か。その頃には会社の20センチほどの携帯を持たされていた。

そして今はスマホの時代。結局この30年間、絶え間なくデジタル機器に翻弄されてきたのだと思う。またまたノスタルジアになった。

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