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2016年2月 7日 (日)

小保方さんは正しいのか

小保方晴子著『あの日』を本屋で見つけて買った。ふだんこうした話題の本はあまり読まないが、入試とか卒業研究審査とかで疲れていたからか、読みたくなった。これが予想以上におもしろく、すぐに読んでしまった。

正直なところ、読んだ後も彼女が正しいのかどうかはわからない。彼女がこの本で非難している、毎日新聞やNHKの記者、あるいは元理化学研究所(理研)の上司で山梨大学に移った若山教授らの言い分とどちらが正しいのかは、この本を読んでも、私には判断できなかった。

ただいくつかの大事なことはよくわかる。1つ目は、この女性がある時期までは相当に幸運で、「あの日」を境に絶望に追い込まれたことだ。早大の理工学部を出て修士課程に入ったところで、東京女子医大の研究所を紹介される。修士を終える頃には、教授との飲み会で酔っぱらって倒れて「先生、私、アメリカに行きたいです」と口走る。

それがきっかけでハーバード大学へ留学して、先方の教授にも気に入られる。早大の博士号を取る頃には理研を紹介されて、そこのメンバーに採用される。20代後半で科学者としての将来を約束されたに等しい。そして「ネイチャー」誌への論文発表を準備しながら、研究所内に自らの研究室を立ち上げる。そのあたりまでは読んでいても嬉しくなる。

ところが「ネイチャー」誌への掲載が決まり、STAP細胞の記者会見をすると、予想外の大きな反響があった。しばらくすると同業者によるアラ探しがネット上で始まる。それが新聞やテレビや週刊誌での批判につながり、メディアスクラム状態でいじめられて、読んでいて本当につらくなる。理研も早稲田も守ってくれない。

たぶん、本人に悪気はなかったと思う。うまくいく女性特有の世渡りのうまさや自己愛は感じるけれど。ただ実力や経験以上に運が良くて忙しくなりすぎ、細かなチェックを怠ったところから、悲劇が始まる。彼女の指導者で自殺した笹井教授はもちろんだが、才能ある日本の科学者がマスコミによって将来を絶たれたことは事実だろう。

もう1つ思うのは、理系の最先端の学者は本当に大変だなと思った。私は日本の某学会の理事をやり、機関誌の査読などをやっているが、「ネイチャー」誌の査読やコメントのくだりを読むと、彼我には100倍くらいの難易度の差がある感じ。そもそもあっちは英語で発表だし。彼女の早稲田の博士論文も英語だとは知らなかった。

この本に書かれた世界に比べたら、自らを「教授」とか「学者」とか「研究者」とか名乗るのが詐欺ではないかと思うほどだ。ああ、よかったと思うと同時に、少しは反省もした。いずれにしても、世界に通用する科学者たちの世界をかいま見るには、うってつけの本だと思う。

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コメント

はじめまして。 男の償い をフイルムセンターでみたとのコメントを なるほどと、 母と暮らせば 見ようか迷っていましたがやはり やめます 山田洋次作品の感想に私もです 吉永小百合さん稀有の女優と思うが 彼女は職業が吉永小百合さんです 私も佐賀に知人がいるので長崎弁のコメント聞いて やっぱり、 小保方著作読んでみたくなりました  不幸てんこ盛りの男の償いは 本当に豪華キャストです 桑野通子さんも美人薄命残念 もう一つ 歴史的に豪華キャスト映画を私は 成瀬己喜男の流れるですと断言します 失礼しました。

投稿: 鬼平の妹 | 2016年2月14日 (日) 21時34分

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