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2016年2月28日 (日)

サイモン・フジワラの柔らかな抵抗感

偶然にネットで批評を読んで、サイモン・フジワラという美術作家の日本での初個展を初台のオペラ・シティ・アートギャラリーに見に行った。展覧会名が「ホワイトデー」というから、日本を皮肉った題名だと思ったが、そう簡単ではなかった。

もちろん「バレンタインデー」は欧米で始まったが、「ホワイトデー」は日本のお菓子メーカーが考えたもの。3月27日までの自分の個展がその期間中だと知って、展覧会名を付けたのだろう。

会場の床には白い布が敷かれている。壁も真っ白。それだけで「ホワイトデー」の感じは出ている。ところが最初にあるのは、毛皮の服の入った紙袋。動物愛護か。それから木の枝があり、近くには1円や百円などの日本の硬貨。

大きな部屋になると一挙に明るくなる。戦時中の日本がフィリピンで発行した軍票を使った扇子。あたりにはイギリスの硬貨。スターリンのマスク。ナチス時代の鷲のマークの壁の断片に、須田国太郎の描く《松鷲》。

奥に大きな透明ガラスで囲った部屋があり、中では本物の女性が実際に毛皮の処理作業をしている。その向こうには、現代イギリスの若い女性をかたどった数十点の兵馬俑。

あちこちに、「経済」「富」「虚栄」「権力」「歴史」「記憶」などを思わせるシンボルが散らばっている。しかしながら、その主張は直線的ではない。「ホワイトデー」という展覧会名がそうであるように、ちょっと取り上げたらおもしろいでしょう、という感じ。

兵馬俑にしても、2011年のロンドンの暴動に参加した16歳のレベッカが、逮捕されて中国で更生プログラムを受けたという事実から出発しているものの、なぜ彼女の型を取ったのかはわからない。しかしそこで中国の伝統と現代イギリスが奇妙に結びついて、不可思議なことに美的な空間が成立している。

明瞭でないシンボルがいくつも並ぶ空間には、柔らかな抵抗感のようなものが流れていて、歩いているとなかなか心地よい。まるで宇宙人が現代の地球にやって来て、困惑したような感じといったらいいのか。入口で配布される作品リストに作家の短いコメントがあるが、それを読んでようやく少しだけわかる。

サイモン・フジワラは父親が日本人、母親がイギリス人で、現在ベルリン在住らしい。そんなコスモポリタンらしい空間が広がっている。この作家は、去年、京都のPARASOFIAで見た時にはあまり印象に残っていないが、これだけまとまって見ると面白い。私は最近の現代美術はあまりピンとこないが、この作家はギリギリのところか。

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