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2016年2月13日 (土)

『しんがり』の影響

清武英利著『しんがり』が文庫になったので読んだ。副題の「山一證券 最後の12人」の通り、1997年に経営破綻した山一証券の後始末をした人々の話だ。実は一昨日にここで「朝日の行方」と題した文章を書いたのは、この本の影響かもしれない。

『しんがり』に描かれているのは、悪いこととわかっていながらどうにかなると推し進めるトップとその取り巻きだ。もちろんこのノンフィクションは、彼らのやったことを調査する人々の話だけれど、そこからは伝統ある大会社特有の腐敗の雰囲気が立ち上がってくる。

その雰囲気は、まさに私が朝日で感じていたものに近かった。とりわけトップにすり寄る役員たちや彼らにゴマをする中間管理職たちの姿が。そんなことを思い出したのは、たぶんこの本の筆者によるところが大きいかもしれない。

清武英利氏は、読売新聞で社会部長などをやって、巨人の球団代表まで登りつめた。いわゆる「清武の乱」で突然読売をクビになり、訴訟を抱えながら読売の悪口を本にしてきた。だから彼がほかの会社について書いても、トップを描くと「ナベツネ」に似てくる。当然その要素は朝日にもあるので、思い出したというわけ。

文章は滑らかなので、すいすい読める。1997年11月22日の日経新聞朝刊に「山一證券自主廃業へ」と出た時の12人のそれぞれの様子などは、まるで見てきたように鮮やかだ。

調査委員長となる常務の嘉本は、朝2時に「日経のアサカン(朝刊)に『山一自主廃業へ』と載っているらしいぞ」という友人からの電話を受ける。その友人は日経に知人がいて、教えてくれたらしい。「誤報に決まっているだろ」と嘉本は答えるが、会社に電話をすると、社長も会長も泊まっている。そこで彼もそのまま会社へ。

2番手の菊野には午前五時に電話がかかってきた。「日経に自主廃業という記事が載っているようです」「これは切腹ですか。介護もしてもらえないのですかね」

若手の横山は借り上げ社宅に住んでいて、先輩から早朝に電話があった。「「ニュース見ろ!」/並んでテレビニュースを見つめた妻は唐突に聞いた。「いつまでここに住めるの?」

嘉本の秘書の郡司は健康診断で聖路加病院にいた。診察費を払おうとしてテレビニュースを見た。「自主廃業!大相撲じゃあるまいし、何のことなの」

山一では社員持ち株を奨励していた。それがすべてクズになった。「生活を切り詰め、十六万株も保有していた女性社員もいた。この女性は二千円という高値の時であれば三億二千万円、経営悪化後に五百円で売っても八千万円の資金を経営陣の無策によって失った計算になる」

「しんがり」の12人は、ほかの社員たちが次々に他社へ転職しても、報告書の作成を続ける。翌年の3月31日に全社員が解雇されても続け、4月13日に106ページが完成する。そして社長たちの反対を押し切って記者会見をする。新聞では「日本企業の歴史に残る内省の資料となるだろう」と高く評価された。

12人をヒーローに祭り上げているわざとらしさはあるけれど、大企業が潰れてゆく様子を細かに描いた小説として十分に楽しめる。もちろん、かつて「社畜」をやった身にはジンとくる。

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